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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

184-2.ちっぽけな夢

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 仄かな切なさを含んだ小さな夢。彼女はそれが叶う日に思いを馳せながらクリスティーナ達へ振り返った。
 その顔は明るい物であったが、一方でクリスティーナの心は一向に晴れない。

 夢として語るにはあまりに些細な事でありながら、そう語ることしか許されない程の困難が彼女の前に立ち塞がっている。
 理不尽に奪われた自由。家へ帰るという当たり前の事を壮大な夢のように語るヘマの姿はクリスティーナにどこか痛々しさを感じさせた。

「――培った経験や味わった苦楽を完全に理解できるのは本人だけだ」

 そんなのはあんまりではないか。それでいいのかとクリスティーナの頭をいくつもの言葉が過る。
 だがそれらが形となるよりも先、低く冷たい声が彼女の鼓膜を揺らしたのだ。

 声の方を見やれば、オリヴィエが静かにクリスティーナを見ている。
 彼は更に続けた。

「他者の立場を自身と重ねて心情を推し量り、何を思うのも自由だが、それで分かった気になんてなってやるな。――覚えておけ」

 太陽に見守られた街の中は程よく賑わっている。
 だがその中でもオリヴィエの声はやけにクリスティーナの耳に残り続けていた。

「同情なんて言う浅はかな感情は本人だけには向けてくれるな。自身の価値観を易々と他者へ押し付けるな。それは時に大きな侮辱に成り得るぞ」

 クリスティーナの鼓動が一度大きく鳴ったかと思えば急激に速度を増していく。
 鋭く冷たい瞳はクリスティーナの内に秘める考えを見抜いているかのようであった。

 訪れる一時の沈黙。だがいつまでも続くと思われたその重苦しい空気は、離れた場所から投げられた明るい声によって打ち消される。

「おーい、みんなー! お待たせ!」

 声を掛けながら駆け足でクリスティーナ達の元へ近づくのはヴィートだ。
 どうやら聞き込みが終わったらしく、彼の後方、店の出入り口付近ではゆっくりとした足取りで戻ってくるリオとブランシュの姿もあった。

 彼らの存在に気付いたオリヴィエは視線をクリスティーナから外す。
 合流を果たした一行が移動を再開させるまでの間、彼がそれ以上話すこともなければ、クリスティーナと目を合わせることもなかった。
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