518 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
182-2.廃棄物の再利用
しおりを挟む
「……罪人?」
思いもよらない告白にクリスティーナは思わず聞き返す。
ヘマは一度オリヴィエの顔を見た後、静かに頷いた。
「二コラは別だが。他の奴らは皆、何かしらの罪に問われて普通に生きる権利や日の下を歩く権利、時に戸籍すら剥奪された者達だ」
クリスティーナもエリアスも、ヘマの告白に絶句する。
ヘマやヴィートが罪人であるという事実も、国が罪人の手を借りた組織を運営している事も、俄かには鵜呑みに出来ない事であった。
「才能や技術……魔導師としての素質があっても大きな罪を犯した者が国を背負う資格を得ることは出来ない。表向きには死刑として処理され、社会から存在を消された、国が認めた危険人物。それがアタシ達」
死刑を言い渡される程の罪。その重さはクリスティーナにもわかる。
だがそれ程の罪を背負った者達がこんなにも身近にいる事がクリスティーナはどこか現実感無く感じた。
「古代魔導具の危険性は既に知っているだろう。いつどんな時にイレギュラーが発生し、命を落とすかもわからない。そんな役割に貴重な人員を割くことが出来ない。だからいつ死んでも構わない、軽い命を利用するんだ」
その危険性から携わる人間を慎重に選ばなければならない役割も、死ぬことを約束された罪人の命ならば躊躇なく使うことが出来る。
廃棄される命の再利用。合理的と言えばその通りだろうが、その考えはあまりにも機械的で倫理を二の次にした行いだ。
古代魔導具の捜査によって死ぬのが例え罪なき者を多く手に掛けた罪人だとしても、良い気はしないとクリスティーナは思った。
「死から逃れる為、もう一度檻の外を歩く為、アタシ達はこの国の言いなりとなる。国や組織に逆らった時はディオンさんが手を下す。そういう契約だ。……これも組織の存在が公にされない理由の一つだろうな」
罪人の寄せ集めで作られた機関等国民からすれば信用出来ようもないだろう。それどころか、この事実が公になれば国に対する国民の不信感も高まるはずだ。
「なら……貴女も彼も、何か犯した罪があってここに居るという事なのね」
「ヴィートについては、本人に直接聞けばあっさり白状するだろうさ。アタシは……」
ヘマは顔を顰め、言い淀む。
その様子に彼女が何を話そうとしてくれていたのかを察したクリスティーナはすぐに首を横に振る。
「……ごめんなさい。貴女達の事情を言及する意図があったわけではないわ。気にしないで頂戴」
「いいや」
独り言のつもりで呟いた言葉がヘマ達の『罪』を言及、もしくは責める意図の物に聞こえかねない事に遅れて気付いたクリスティーナは謝罪を述べる。
それに短く言葉を返したヘマは少し考える様に黙り込んだ後、小さく呟いた。
「……アタシは東大陸の南西、小さな部族の出なんだ」
彼女は自らの身の上をぽつりぽつりと語り始める。
思いもよらない告白にクリスティーナは思わず聞き返す。
ヘマは一度オリヴィエの顔を見た後、静かに頷いた。
「二コラは別だが。他の奴らは皆、何かしらの罪に問われて普通に生きる権利や日の下を歩く権利、時に戸籍すら剥奪された者達だ」
クリスティーナもエリアスも、ヘマの告白に絶句する。
ヘマやヴィートが罪人であるという事実も、国が罪人の手を借りた組織を運営している事も、俄かには鵜呑みに出来ない事であった。
「才能や技術……魔導師としての素質があっても大きな罪を犯した者が国を背負う資格を得ることは出来ない。表向きには死刑として処理され、社会から存在を消された、国が認めた危険人物。それがアタシ達」
死刑を言い渡される程の罪。その重さはクリスティーナにもわかる。
だがそれ程の罪を背負った者達がこんなにも身近にいる事がクリスティーナはどこか現実感無く感じた。
「古代魔導具の危険性は既に知っているだろう。いつどんな時にイレギュラーが発生し、命を落とすかもわからない。そんな役割に貴重な人員を割くことが出来ない。だからいつ死んでも構わない、軽い命を利用するんだ」
その危険性から携わる人間を慎重に選ばなければならない役割も、死ぬことを約束された罪人の命ならば躊躇なく使うことが出来る。
廃棄される命の再利用。合理的と言えばその通りだろうが、その考えはあまりにも機械的で倫理を二の次にした行いだ。
古代魔導具の捜査によって死ぬのが例え罪なき者を多く手に掛けた罪人だとしても、良い気はしないとクリスティーナは思った。
「死から逃れる為、もう一度檻の外を歩く為、アタシ達はこの国の言いなりとなる。国や組織に逆らった時はディオンさんが手を下す。そういう契約だ。……これも組織の存在が公にされない理由の一つだろうな」
罪人の寄せ集めで作られた機関等国民からすれば信用出来ようもないだろう。それどころか、この事実が公になれば国に対する国民の不信感も高まるはずだ。
「なら……貴女も彼も、何か犯した罪があってここに居るという事なのね」
「ヴィートについては、本人に直接聞けばあっさり白状するだろうさ。アタシは……」
ヘマは顔を顰め、言い淀む。
その様子に彼女が何を話そうとしてくれていたのかを察したクリスティーナはすぐに首を横に振る。
「……ごめんなさい。貴女達の事情を言及する意図があったわけではないわ。気にしないで頂戴」
「いいや」
独り言のつもりで呟いた言葉がヘマ達の『罪』を言及、もしくは責める意図の物に聞こえかねない事に遅れて気付いたクリスティーナは謝罪を述べる。
それに短く言葉を返したヘマは少し考える様に黙り込んだ後、小さく呟いた。
「……アタシは東大陸の南西、小さな部族の出なんだ」
彼女は自らの身の上をぽつりぽつりと語り始める。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚
水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ!
そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!!
最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。
だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。
チートの成長率ってよく分からないです。
初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!!
あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。
あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。
おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?
渡邊 香梨
ファンタジー
コミックシーモア電子コミック大賞2025ノミネート! 11/30まで投票宜しくお願いします……!m(_ _)m
――小説3巻&コミックス1巻大好評発売中!――【旧題:聖女の姉ですが、国外逃亡します!~妹のお守りをするくらいなら、腹黒宰相サマと駆け落ちします!~】
12.20/05.02 ファンタジー小説ランキング1位有難うございます!
双子の妹ばかりを優先させる家族から離れて大学へ進学、待望の一人暮らしを始めた女子大生・十河怜菜(そがわ れいな)は、ある日突然、異世界へと召喚された。
召喚させたのは、双子の妹である舞菜(まな)で、召喚された先は、乙女ゲーム「蘇芳戦記」の中の世界。
国同士を繋ぐ「転移扉」を守護する「聖女」として、舞菜は召喚されたものの、守護魔力はともかく、聖女として国内貴族や各国上層部と、社交が出来るようなスキルも知識もなく、また、それを会得するための努力をするつもりもなかったために、日本にいた頃の様に、自分の代理(スペア)として、怜菜を同じ世界へと召喚させたのだ。
妹のお守りは、もうごめん――。
全てにおいて妹優先だった生活から、ようやく抜け出せたのに、再び妹のお守りなどと、冗談じゃない。
「宰相閣下、私と駆け落ちしましょう」
内心で激怒していた怜菜は、日本同様に、ここでも、妹の軛(くびき)から逃れるための算段を立て始めた――。
※ R15(キスよりちょっとだけ先)が入る章には☆を入れました。
【近況ボードに書籍化についてや、参考資料等掲載中です。宜しければそちらもご参照下さいませ】
異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです
かものはし
ファンタジー
この力は危険だからあまり使わないようにしよう――。
そんな風に考えていたら役立たずのポンコツ扱いされて勇者パーティから追い出された保井武・32歳。
とりあえず腹が減ったので近くの町にいくことにしたがあの勇者パーティにいた自分の顔は割れてたりする?
パーティから追い出されたなんて噂されると恥ずかしいし……。そうだ別人になろう。
そんなこんなで始まるキュートな少年の姿をしたおっさんの冒険譚。
目指すは復讐? スローライフ? ……それは誰にも分かりません。
とにかく書きたいことを思いつきで進めるちょっとえっちな珍道中、はじめました。
万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?
Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。
貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。
貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。
ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。
「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」
基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。
さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・
タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。
異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜
藤*鳳
ファンタジー
楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...??
神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!!
冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。
生まれ変わり大魔法使いの自由気まま生活?いえ、生きる為には、働かなくてはいけません。
光子
ファンタジー
昔むかしーーそう遠くない50年程前まで、この世界は魔王に襲われ、人類は滅亡の一手を辿っていた。
だが、そんな世界を救ったのが、大魔法使い《サクラ》だった。
彼女は、命をかけて魔王を封印し、世界を救った。
ーーーそれから50年後。
「……あ、思い出した」
すっかり平和になった世界。
その世界で、貧乏家庭で育った5人兄弟姉妹の真ん中《ヒナキ》は、財政難な家族を救う為、貴族様達金持ちが多く通う超一流学校に、就職に有利な魔法使いになる為に入学を決意!
女子生徒達の過度な嫌がらせや、王子様の意地悪で生意気な態度をスルーしつつ懸命に魔法の勉学に励んでいたら、ある日突然、前世の記憶が蘇った。
そう。私の前世は、大魔法使いサクラ。
もし生まれ変わったらなら、私が取り戻した平和を堪能するために、自由気ままな生活をしよう!そう決めていたのに、現実は、生きる為には、お金が必要。そう、働かなきゃならない!
それならせめて、学校生活を楽しみつつ、卒業したらホワイトな就職先を見付けようと決意を新たに、いつか自由気ままな生活を送れるようになるために、頑張る!
不定期更新していきます。
よろしくお願いします。
アブストラクト・シンキング 人間編
時富まいむ(プロフ必読
ファンタジー
訳ありでここに連載している小説をカクヨムに移転、以降の更新をそちらで行います。
一月末まで公開しております
侵食した世界に隠された真実を子供たちは受け入れるのか、それとも・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる