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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

179-1.誤魔化した弱音

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「いや、何当たり前の様に見張り番しようとしてるんだよ!」
「声が大きいですよ」

 真夜中の客室でそう叫んだのはエリアスだ。
 その大きな声をリオが小声で窘めるが、クリスティーナとしては今回ばかりはエリアスの肩を持つ外ない。

「お前、昼間に変な薬吸ったって言ってただろぉ……。寝ろ、寝るんだよ!」
「薬の作用自体は随分前に抜けているのですが」
「不死身だって疲労はあるんだろ。それにオレは今日殆ど動いてないんだから、こういう時くらい甘えればいいんだよ」
「はぁ」
「なんで不服そうなんだよ……!」

 どこか他人事の様な答えばかり返すリオの様子に頭を抱えたエリアスは既にベッドへ腰を下ろしているクリスティーナを見る。
 助けを求めるような視線と不毛なやり取りに耐えかねたクリスティーナは息を一つ吐くと床に敷かれている布団を指さした。

「リオ、彼の言う通りにしなさい」
「ほらぁ!」
「本当に問題はないのですが……」

 リオが自身の不調や疲労について無頓着なのは今に始まったことではない。
 故に何故ここまで心配をされているのかと怪訝そうな態度を取るのも想定内ではあるのだが、エリアスの言う通り、リオは不死身であっても疲労を感じないわけではないのだ。

 主人の言葉にすらどこか不服そうにする従者の姿を見ながらクリスティーナは少し思い悩む。
 エリアスも自身の怪我に疎い節があるが、その点についてリオも言えた口ではない。納得して貰うにはどう伝えるのが良いだろうか。

 そう考えたクリスティーナはふとオリオール邸の倉庫前で、彼とした会話を思い出す。
 同時に思い浮かんだのは一つの企てだ。

「……その布団を持ってきて頂戴」
「何故布団を……うわ」
「どうしたのかしら」
「惚けないでください。俺を陥れる方法を見つけた時の様な顔をしてますよ」

 疑問に思いながら主人の顔を見やったリオはその表情を見てげんなりとする。
 クリスティーナの表情が乏しい事は周知の事実であり、今この時もわかりやすい変化があった訳ではない。実際にエリアスが何か気付いた様子もない。

 だが、長年主人に仕えてきたリオには僅かな表情の変化のみでクリスティーナの心情が読み取れてしまう。
 日頃のクリスティーナは従者の飄々とした振る舞いや揶揄いに振り回されてばかりだが、極稀に仕返しの機会を見つけることがある。そういう時は決まって勝ち誇った様な顔をしていると以前のリオから聞いたことがあった。

 今はその時の様な顔をしていると彼は言いたいのだろう。
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