509 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
179-1.誤魔化した弱音
しおりを挟む
「いや、何当たり前の様に見張り番しようとしてるんだよ!」
「声が大きいですよ」
真夜中の客室でそう叫んだのはエリアスだ。
その大きな声をリオが小声で窘めるが、クリスティーナとしては今回ばかりはエリアスの肩を持つ外ない。
「お前、昼間に変な薬吸ったって言ってただろぉ……。寝ろ、寝るんだよ!」
「薬の作用自体は随分前に抜けているのですが」
「不死身だって疲労はあるんだろ。それにオレは今日殆ど動いてないんだから、こういう時くらい甘えればいいんだよ」
「はぁ」
「なんで不服そうなんだよ……!」
どこか他人事の様な答えばかり返すリオの様子に頭を抱えたエリアスは既にベッドへ腰を下ろしているクリスティーナを見る。
助けを求めるような視線と不毛なやり取りに耐えかねたクリスティーナは息を一つ吐くと床に敷かれている布団を指さした。
「リオ、彼の言う通りにしなさい」
「ほらぁ!」
「本当に問題はないのですが……」
リオが自身の不調や疲労について無頓着なのは今に始まったことではない。
故に何故ここまで心配をされているのかと怪訝そうな態度を取るのも想定内ではあるのだが、エリアスの言う通り、リオは不死身であっても疲労を感じないわけではないのだ。
主人の言葉にすらどこか不服そうにする従者の姿を見ながらクリスティーナは少し思い悩む。
エリアスも自身の怪我に疎い節があるが、その点についてリオも言えた口ではない。納得して貰うにはどう伝えるのが良いだろうか。
そう考えたクリスティーナはふとオリオール邸の倉庫前で、彼とした会話を思い出す。
同時に思い浮かんだのは一つの企てだ。
「……その布団を持ってきて頂戴」
「何故布団を……うわ」
「どうしたのかしら」
「惚けないでください。俺を陥れる方法を見つけた時の様な顔をしてますよ」
疑問に思いながら主人の顔を見やったリオはその表情を見てげんなりとする。
クリスティーナの表情が乏しい事は周知の事実であり、今この時もわかりやすい変化があった訳ではない。実際にエリアスが何か気付いた様子もない。
だが、長年主人に仕えてきたリオには僅かな表情の変化のみでクリスティーナの心情が読み取れてしまう。
日頃のクリスティーナは従者の飄々とした振る舞いや揶揄いに振り回されてばかりだが、極稀に仕返しの機会を見つけることがある。そういう時は決まって勝ち誇った様な顔をしていると以前のリオから聞いたことがあった。
今はその時の様な顔をしていると彼は言いたいのだろう。
「声が大きいですよ」
真夜中の客室でそう叫んだのはエリアスだ。
その大きな声をリオが小声で窘めるが、クリスティーナとしては今回ばかりはエリアスの肩を持つ外ない。
「お前、昼間に変な薬吸ったって言ってただろぉ……。寝ろ、寝るんだよ!」
「薬の作用自体は随分前に抜けているのですが」
「不死身だって疲労はあるんだろ。それにオレは今日殆ど動いてないんだから、こういう時くらい甘えればいいんだよ」
「はぁ」
「なんで不服そうなんだよ……!」
どこか他人事の様な答えばかり返すリオの様子に頭を抱えたエリアスは既にベッドへ腰を下ろしているクリスティーナを見る。
助けを求めるような視線と不毛なやり取りに耐えかねたクリスティーナは息を一つ吐くと床に敷かれている布団を指さした。
「リオ、彼の言う通りにしなさい」
「ほらぁ!」
「本当に問題はないのですが……」
リオが自身の不調や疲労について無頓着なのは今に始まったことではない。
故に何故ここまで心配をされているのかと怪訝そうな態度を取るのも想定内ではあるのだが、エリアスの言う通り、リオは不死身であっても疲労を感じないわけではないのだ。
主人の言葉にすらどこか不服そうにする従者の姿を見ながらクリスティーナは少し思い悩む。
エリアスも自身の怪我に疎い節があるが、その点についてリオも言えた口ではない。納得して貰うにはどう伝えるのが良いだろうか。
そう考えたクリスティーナはふとオリオール邸の倉庫前で、彼とした会話を思い出す。
同時に思い浮かんだのは一つの企てだ。
「……その布団を持ってきて頂戴」
「何故布団を……うわ」
「どうしたのかしら」
「惚けないでください。俺を陥れる方法を見つけた時の様な顔をしてますよ」
疑問に思いながら主人の顔を見やったリオはその表情を見てげんなりとする。
クリスティーナの表情が乏しい事は周知の事実であり、今この時もわかりやすい変化があった訳ではない。実際にエリアスが何か気付いた様子もない。
だが、長年主人に仕えてきたリオには僅かな表情の変化のみでクリスティーナの心情が読み取れてしまう。
日頃のクリスティーナは従者の飄々とした振る舞いや揶揄いに振り回されてばかりだが、極稀に仕返しの機会を見つけることがある。そういう時は決まって勝ち誇った様な顔をしていると以前のリオから聞いたことがあった。
今はその時の様な顔をしていると彼は言いたいのだろう。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜
黒城白爵
ファンタジー
とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。
死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。
自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。
黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。
使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。
※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。
※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
※完結まで毎日更新です。
移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる
みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」
濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い
「あー、薪があればな」
と思ったら
薪が出てきた。
「はい?……火があればな」
薪に火がついた。
「うわ!?」
どういうことだ?
どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。
これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
ハニーローズ ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~
悠月 星花
ファンタジー
「背筋を伸ばして凛とありたい」
トワイス国にアンナリーゼというお転婆な侯爵令嬢がいる。
アンナリーゼは、小さい頃に自分に関わる『予知夢』を見れるようになり、将来起こるであろう出来事を知っていくことになる。
幼馴染との結婚や家族や友人に囲まれ幸せな生活の予知夢見ていた。
いつの頃か、トワイス国の友好国であるローズディア公国とエルドア国を含めた三国が、インゼロ帝国から攻められ戦争になり、なすすべもなく家族や友人、そして大切な人を亡くすという夢を繰り返しみるようになる。
家族や友人、大切な人を守れる未来が欲しい。
アンナリーゼの必死の想いが、次代の女王『ハニーローズ』誕生という選択肢を増やす。
1つ1つの選択を積み重ね、みんなが幸せになれるようアンナリーゼは『予知夢』で見た未来を変革していく。
トワイス国の貴族として、強くたくましく、そして美しく成長していくアンナリーゼ。
その遊び場は、社交界へ学園へ隣国へと活躍の場所は変わっていく……
家族に支えられ、友人に慕われ、仲間を集め、愛する者たちが幸せな未来を生きられるよう、死の間際まで凛とした薔薇のように懸命に生きていく。
予知の先の未来に幸せを『ハニーローズ』に託し繋げることができるのか……
『予知夢』に翻弄されながら、懸命に生きていく母娘の物語。
※この作品は、「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルアップ+」「ノベリズム」にも掲載しています。
表紙は、菜見あぉ様にココナラにて依頼させていただきました。アンナリーゼとアンジェラです。
タイトルロゴは、草食動物様の企画にてお願いさせていただいたものです!
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~4巻が発売中!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
第8巻は12月16日に発売予定です! 今回は天狼祭編です!
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。
武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。
人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】
前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。
そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。
そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。
様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。
村を出て冒険者となったその先は…。
※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる