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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
178-3.一時の別れ
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危険を承知の上で協力関係を続けた理由。
一つは古代魔導具について耳にし、その影響がどれだけの物となるかわからない以上、クリスティーナ達もまた他人事ではいられないという事実があったから。
本館と敷地の端に位置する倉庫の距離は決して短くない。古代魔導具の魔法の効果範囲がそれ以上だと仮定するのであれば現時点で効果範囲はオリオール邸の外まで含まれている可能性が高い。
もし古代魔導具が今以上に活発にエネルギーを求める様になれば外部の者をも巻き込む可能性があり、もしそうなった場合、街全体が混乱状態となることは目に見えている。
いつ街中が巻き込まれるかわからない今の状況はニュイに滞在しているクリスティーナ達も無関係ではない事を指しているのだ。
また、二つ目にクリスティーナはディオン達の捜査に於いてまだ自身の能力に利用価値があると考えていた。
いつ何が起こるかわからない不安定な状況の解決。その助力となれる可能性が自分にあるのならリスクを背負ってでも動くべきだという結論にクリスティーナは至ったのだった。
動こうが動かなかろうが最早何が起きるかわからない。
ならば少しでも状況が好転する様自分自身でも足掻くべきである。
そんな考えから返される頷きに、ジルベールは眉を下げて笑う。
「そうですか」
彼は一つ息を吐くと、自身の胸に手を当てる。
「私は職務の都合でご同行できません。ですがその代わりにシャルロット様からお話を伺おうと思っています」
「話?」
「はい。お体を崩された直前に何があったのか、詳しい話をお伺いすれば何かわかるかもしれませんから」
古代魔導具の植物化の魔法。その発動条件が接触関連であるならばシャルロットも魔導具に近づいたことがあるはずだ。
その際に起きた事を詳細に問えば古代魔導具に関する更に詳しい情報を得ることが出来るかもしれない。
「……そう」
「くれぐれもお気をつけて。ジョゼフ様がどう動くかわからない以上、近くにいるジルベール様は危険な立場ですから」
「ご忠告ありがとうございます。皆様もどうかお気をつけて」
ジルベールは深々と頭を下げる。
それはただの別れの挨拶というにはとても畏まった一礼だ。
クリスティーナ達の今までの全ての行いに謝辞を示す様に、彼は暫く頭を下げてからゆっくりと顔を上げる。
そして淡く微笑むと、彼は一歩後ろへと下がった。
「それではご武運を。互いに情報を得た時にまたお会いしましょう」
頷きを返す三人。それを視界に捉えてから彼は三人に背を向け、その場から離れた。
やがて深い夜の闇がその背中を呑み込み、彼は夜の街並みから姿を消した。
一つは古代魔導具について耳にし、その影響がどれだけの物となるかわからない以上、クリスティーナ達もまた他人事ではいられないという事実があったから。
本館と敷地の端に位置する倉庫の距離は決して短くない。古代魔導具の魔法の効果範囲がそれ以上だと仮定するのであれば現時点で効果範囲はオリオール邸の外まで含まれている可能性が高い。
もし古代魔導具が今以上に活発にエネルギーを求める様になれば外部の者をも巻き込む可能性があり、もしそうなった場合、街全体が混乱状態となることは目に見えている。
いつ街中が巻き込まれるかわからない今の状況はニュイに滞在しているクリスティーナ達も無関係ではない事を指しているのだ。
また、二つ目にクリスティーナはディオン達の捜査に於いてまだ自身の能力に利用価値があると考えていた。
いつ何が起こるかわからない不安定な状況の解決。その助力となれる可能性が自分にあるのならリスクを背負ってでも動くべきだという結論にクリスティーナは至ったのだった。
動こうが動かなかろうが最早何が起きるかわからない。
ならば少しでも状況が好転する様自分自身でも足掻くべきである。
そんな考えから返される頷きに、ジルベールは眉を下げて笑う。
「そうですか」
彼は一つ息を吐くと、自身の胸に手を当てる。
「私は職務の都合でご同行できません。ですがその代わりにシャルロット様からお話を伺おうと思っています」
「話?」
「はい。お体を崩された直前に何があったのか、詳しい話をお伺いすれば何かわかるかもしれませんから」
古代魔導具の植物化の魔法。その発動条件が接触関連であるならばシャルロットも魔導具に近づいたことがあるはずだ。
その際に起きた事を詳細に問えば古代魔導具に関する更に詳しい情報を得ることが出来るかもしれない。
「……そう」
「くれぐれもお気をつけて。ジョゼフ様がどう動くかわからない以上、近くにいるジルベール様は危険な立場ですから」
「ご忠告ありがとうございます。皆様もどうかお気をつけて」
ジルベールは深々と頭を下げる。
それはただの別れの挨拶というにはとても畏まった一礼だ。
クリスティーナ達の今までの全ての行いに謝辞を示す様に、彼は暫く頭を下げてからゆっくりと顔を上げる。
そして淡く微笑むと、彼は一歩後ろへと下がった。
「それではご武運を。互いに情報を得た時にまたお会いしましょう」
頷きを返す三人。それを視界に捉えてから彼は三人に背を向け、その場から離れた。
やがて深い夜の闇がその背中を呑み込み、彼は夜の街並みから姿を消した。
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