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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
176-2.知性ある兵器
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人を利用する事を覚えている道具。それも兵器という目的の元造られたのだろう存在。
恐ろしい能力を備えていながら、それを最大限に生かす方法を自ら模索出来てしまう。自立した魔導具が如何に厄介な代物であるか察することは難しくない。
「他者の姿を変化させた上でその生命を自身へ取り込み、糧とする。魔導具の一部となった植物は大本のエネルギーの一部を微量に供給され続け、望みのままに動く傀儡と成り果てる。こんなところか。シャルロット嬢の不調の悪化は持続的に生命エネルギーを吸い取られているが故の弊害だろう」
「他者の命を取り込んだ魔導具は更に力をつけ、より効率良く生命を搾取する術を身に付けていく……嫌な循環ですね」
「ああ。だからこそ一刻も早く解決しなければならない」
真剣な顔つきでリオが事の厄介さを憂いる。その場の全員が彼と同じ心境であった事だろう。
その本質を取り戻すまでであれば古代魔導具は生命エネルギーの吸収に労力を費やす必要がある。
だが生命エネルギーと魔力のどちらもがゆとりある物となったその瞬間から、古代魔導具は己の力を最大限に活用する事に集中出来てしまう。そうなればどれだけの影響が出るかはわからない。
古代魔導具の力の限界は未知数だ。
もし古代魔導具が既に本来の力を取り戻しているのであれば、今以上の影響力を得る事がないという事になるが、未だその脅威が膨らみ続けている場合は非常に危険だ。
古代魔導具に秘められた能力の大きさを正確に計ることが出来ない以上、ディオン達の予測を上回るだけの猛威を奮う可能性も十分に考えられる。
ディオン達組織側の人間としても、出来れば本来の能力が発揮されない内に事を運びたい物だろう。
「……訳だが、だからと言って焦って慎重さを失うのはよろしくない。お前のことを言っているんだぞ」
咎めるようにディオンが睨みつけたのはオリヴィエだ。
昨晩は言い合い、取り乱していた彼だが、どうやら今日は比較的落ち着いている様だ。
彼は肩を竦めると小さく息を吐く。
「……わかってますよ。そもそも話を聞く限り、その古代魔導具と僕の魔法はあまりにも相性が悪い。無鉄砲に突っ込んでも意味がない」
「わかっているならいいんだ」
冷静さを装い、客観的な見解を述べるオリヴィエ。
だがその横顔に滲んだ僅かな焦りと苛立ちをクリスティーナは見逃さなかった。
「それよりも」
だがオリヴィエはクリスティーナ以外の誰もが悟らない程に己の感情を押し留め、後ろを振り返る。
彼が見やったのはこの大部屋の出入口。先程ヘマと少女が潜り抜けて行った扉のある方角だ。
「あいつはどうするつもりですか」
彼の言う『あいつ』とはここを訪れた少女の事だろう。
この問いに対し、ディオンは難しい顔を作った。
恐ろしい能力を備えていながら、それを最大限に生かす方法を自ら模索出来てしまう。自立した魔導具が如何に厄介な代物であるか察することは難しくない。
「他者の姿を変化させた上でその生命を自身へ取り込み、糧とする。魔導具の一部となった植物は大本のエネルギーの一部を微量に供給され続け、望みのままに動く傀儡と成り果てる。こんなところか。シャルロット嬢の不調の悪化は持続的に生命エネルギーを吸い取られているが故の弊害だろう」
「他者の命を取り込んだ魔導具は更に力をつけ、より効率良く生命を搾取する術を身に付けていく……嫌な循環ですね」
「ああ。だからこそ一刻も早く解決しなければならない」
真剣な顔つきでリオが事の厄介さを憂いる。その場の全員が彼と同じ心境であった事だろう。
その本質を取り戻すまでであれば古代魔導具は生命エネルギーの吸収に労力を費やす必要がある。
だが生命エネルギーと魔力のどちらもがゆとりある物となったその瞬間から、古代魔導具は己の力を最大限に活用する事に集中出来てしまう。そうなればどれだけの影響が出るかはわからない。
古代魔導具の力の限界は未知数だ。
もし古代魔導具が既に本来の力を取り戻しているのであれば、今以上の影響力を得る事がないという事になるが、未だその脅威が膨らみ続けている場合は非常に危険だ。
古代魔導具に秘められた能力の大きさを正確に計ることが出来ない以上、ディオン達の予測を上回るだけの猛威を奮う可能性も十分に考えられる。
ディオン達組織側の人間としても、出来れば本来の能力が発揮されない内に事を運びたい物だろう。
「……訳だが、だからと言って焦って慎重さを失うのはよろしくない。お前のことを言っているんだぞ」
咎めるようにディオンが睨みつけたのはオリヴィエだ。
昨晩は言い合い、取り乱していた彼だが、どうやら今日は比較的落ち着いている様だ。
彼は肩を竦めると小さく息を吐く。
「……わかってますよ。そもそも話を聞く限り、その古代魔導具と僕の魔法はあまりにも相性が悪い。無鉄砲に突っ込んでも意味がない」
「わかっているならいいんだ」
冷静さを装い、客観的な見解を述べるオリヴィエ。
だがその横顔に滲んだ僅かな焦りと苛立ちをクリスティーナは見逃さなかった。
「それよりも」
だがオリヴィエはクリスティーナ以外の誰もが悟らない程に己の感情を押し留め、後ろを振り返る。
彼が見やったのはこの大部屋の出入口。先程ヘマと少女が潜り抜けて行った扉のある方角だ。
「あいつはどうするつもりですか」
彼の言う『あいつ』とはここを訪れた少女の事だろう。
この問いに対し、ディオンは難しい顔を作った。
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