上 下
498 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

174-4.密接な関係

しおりを挟む
「また、古代魔導具はその機能を失うことなく長い年月を過ごした道具。正しく使われず眠り続けていたのだとすれば、ジョゼフの手に渡った時点でその生命エネルギーは非常に脆弱であったと考えられる」

 ここまで来ればその場の誰もがシャルロットと失踪者達の間に生まれた植物化の不自然な時差の理由に見当がついていた。
 各々が自力で答えに辿り着いた事をその表情から察しながらディオンは結論を纏める。

「以上の事から、それはシャルロット嬢が古代魔導具の魔法を受けた時、件の古代魔導具の生命エネルギーは非常に脆弱な物であったと推測できる。故に本来行使できるはずの魔法がまともに機能せず、辛うじて影響を与える程度の規模の魔法が作用したんだろう」

 ディオンは魔法の原理をわかりやすく説明した上で一貫して矛盾のない推理を披露した。
 その事を内心称賛しつつ、クリスティーナは頷く。

「シャルロットの植物化が遅いのは魔導具の力が衰えていた初期に魔法を受けたからこその物……。であるならば、失踪した使用人達が彼女に比べて早くに植物となってしまったのは……」
「それだけ古代魔導具のエネルギーが充填され、本来の性能を取り戻しつつある為だろう」

 オリオール邸で生まれた大きな疑問は一つ晴れた。
 だがそうすると次に明らかになるのは今の状況がどれ程深刻な物であるかという事だ。

「生命エネルギーの枯渇、延いては保有魔力の枯渇は魔法の威力や影響を与える範囲等、その脅威性を大きく下げる要因となり得る。だが現在、件の魔導具が本質を取り戻しつつあるって言うのなら……その影響はどこまで行き届くか分かったもんじゃねぇ。早急に手を打つべきだ」

 誰にも疑わらず何週間も屋敷に人を監禁することは難しい。それも繰り返しの犯行となると尚更だ。
 今までぼろが出ず、同じ手段を取れていたという事はそれだけ事が円滑に運んでいたという証拠。

 植物化の進行速度の上昇は相当な物だと考えるのが妥当だ。
 そして順当に考えれば当然、進行速度以外の古代魔導具の性能も大きく向上しているという事になる。
 更に放っておけばその脅威は膨らんで行く一方だ。

 その深刻性を悟っていたからこそ、ディオンは終始難しい顔をしていたのだろう。

「……生物から為る魔導具とやらの特徴については大まかに理解したわ。それで、何かしらの手を打つに当たって今回の古代魔導具の詳細な特徴や明確な対策方法などに目星はついているのかしら? 植物化を回避する手段がなければ手を打つも何もあったものではないでしょう」

 被害が拡大する前に早急に動く必要はある。だが具体的な対策がなければ『動く』事すらできない。
 そんなクリスティーナの指摘に、ディオンは首を縦に振る。

「ああ。具体的な話をする為にまず、ここまでの情報を整理しよう」

 最早個人を救うという問題には留まらない。
 まだ明けない夜の最中、六人は膨れ上がる目先の脅威に対抗する策を講じる事となる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました

鹿乃目めのか
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。 ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。 失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。 主人公が本当の愛を手に入れる話。 独自設定のファンタジーです。 さくっと読める短編です。 ※完結しました。ありがとうございました。 閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。 ご感想へのお返事は、執筆優先・ネタバレ防止のため控えさせていただきますが、大切に拝見しております。 本当にありがとうございます。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨
ファンタジー
コミックシーモア電子コミック大賞2025ノミネート! 11/30まで投票宜しくお願いします……!m(_ _)m ――小説3巻&コミックス1巻大好評発売中!――【旧題:聖女の姉ですが、国外逃亡します!~妹のお守りをするくらいなら、腹黒宰相サマと駆け落ちします!~】 12.20/05.02 ファンタジー小説ランキング1位有難うございます! 双子の妹ばかりを優先させる家族から離れて大学へ進学、待望の一人暮らしを始めた女子大生・十河怜菜(そがわ れいな)は、ある日突然、異世界へと召喚された。 召喚させたのは、双子の妹である舞菜(まな)で、召喚された先は、乙女ゲーム「蘇芳戦記」の中の世界。 国同士を繋ぐ「転移扉」を守護する「聖女」として、舞菜は召喚されたものの、守護魔力はともかく、聖女として国内貴族や各国上層部と、社交が出来るようなスキルも知識もなく、また、それを会得するための努力をするつもりもなかったために、日本にいた頃の様に、自分の代理(スペア)として、怜菜を同じ世界へと召喚させたのだ。 妹のお守りは、もうごめん――。 全てにおいて妹優先だった生活から、ようやく抜け出せたのに、再び妹のお守りなどと、冗談じゃない。 「宰相閣下、私と駆け落ちしましょう」 内心で激怒していた怜菜は、日本同様に、ここでも、妹の軛(くびき)から逃れるための算段を立て始めた――。 ※ R15(キスよりちょっとだけ先)が入る章には☆を入れました。 【近況ボードに書籍化についてや、参考資料等掲載中です。宜しければそちらもご参照下さいませ】

【完結】すっぽんじゃなくて太陽の女神です

土広真丘
ファンタジー
三千年の歴史を誇る神千皇国の皇帝家に生まれた日香。 皇帝家は神の末裔であり、一部の者は先祖返りを起こして神の力に目覚める。 月の女神として覚醒した双子の姉・月香と比較され、未覚醒の日香は無能のすっぽんと揶揄されている。 しかし実は、日香は初代皇帝以来の三千年振りとなる太陽の女神だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

処理中です...