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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
172-1.魔術にしかできない事
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魔術は無生物以外にも行使できる。その言葉の真意を問う様に、五つの視線がディオンへと向けられた。
「一番わかりやすい例を挙げるなら奴隷だな。今やいくつかの国では廃れた文化だが、それでも奴隷として売られた者を誰かの所有物として見なす制度はこの東大陸でも根強く残っている。そして奴隷として人権を失った奴らはその体に術式を埋め込まれる」
「奴隷印のことですね。入れ墨や焼き印など、容易に消えることの無い方法で人の体に刻みます」
奴隷という存在は知っていたが、クリスティーナはそれを身近に感じる事なく生きて来た。
そんな彼女でも話に付いて行けるようにという配慮だろう。リオが説明を加えた。
「ああ。奴隷印はそいつが人間以下の存在であるという証拠であり、同時に主人への服従を強制させる魔術でもある」
生命……それも人類にも効果を齎すことが魔術には出来るのだとディオンは言う。
奴隷が人としての尊厳を剥奪された存在であることはクリスティーナも認知していたが、主人に歯向かうことを避ける為に人体に魔術が施されているという事実を耳にしたのは初めてだ。
エリアスやオリヴィエ、ジルベールも奴隷印の存在自体は知っている様であったが、それが奴隷の行動を制限する為の魔術である事は初耳だったらしい。ディオンの説明には彼らも目を見張っていた。
イニティウム皇国もフォルトゥナも奴隷を使役する文化が廃れて来ている国だ。大々的に規制する法がある訳ではない為奴隷の売買の一切が行われていないわけではないが、民間人の多くは奴隷とは関わりのない生活を送っている。彼らが奴隷印の詳細を知らなくともおかしくはないだろう。
寧ろ五人の中で唯一動じていないリオが持つ知識量にはクリスティーナも舌を巻くしかない。
しかしどこで奴隷についての知識など得たのだろうという疑問が彼女の頭を過った時、その考えを遮る様にディオンが話を続ける。
「どのように奴隷を服従させているのかは奴隷印の種類にもよるが……今はそんなことはどうでもいい。重要なのは、魔術はその術式さえ対象に刻むことが出来れば、生命に直接影響を与えられちまうって事だ」
「魔術は条件さえ満たせば望んだ効果を直接対象へ与えることが出来る。あくまで間接的にしか相手を攻撃できない現代の魔法とは異なる部分だわ。……それで、それを明らかにした貴方は何が言いたいの?」
「一番わかりやすい例を挙げるなら奴隷だな。今やいくつかの国では廃れた文化だが、それでも奴隷として売られた者を誰かの所有物として見なす制度はこの東大陸でも根強く残っている。そして奴隷として人権を失った奴らはその体に術式を埋め込まれる」
「奴隷印のことですね。入れ墨や焼き印など、容易に消えることの無い方法で人の体に刻みます」
奴隷という存在は知っていたが、クリスティーナはそれを身近に感じる事なく生きて来た。
そんな彼女でも話に付いて行けるようにという配慮だろう。リオが説明を加えた。
「ああ。奴隷印はそいつが人間以下の存在であるという証拠であり、同時に主人への服従を強制させる魔術でもある」
生命……それも人類にも効果を齎すことが魔術には出来るのだとディオンは言う。
奴隷が人としての尊厳を剥奪された存在であることはクリスティーナも認知していたが、主人に歯向かうことを避ける為に人体に魔術が施されているという事実を耳にしたのは初めてだ。
エリアスやオリヴィエ、ジルベールも奴隷印の存在自体は知っている様であったが、それが奴隷の行動を制限する為の魔術である事は初耳だったらしい。ディオンの説明には彼らも目を見張っていた。
イニティウム皇国もフォルトゥナも奴隷を使役する文化が廃れて来ている国だ。大々的に規制する法がある訳ではない為奴隷の売買の一切が行われていないわけではないが、民間人の多くは奴隷とは関わりのない生活を送っている。彼らが奴隷印の詳細を知らなくともおかしくはないだろう。
寧ろ五人の中で唯一動じていないリオが持つ知識量にはクリスティーナも舌を巻くしかない。
しかしどこで奴隷についての知識など得たのだろうという疑問が彼女の頭を過った時、その考えを遮る様にディオンが話を続ける。
「どのように奴隷を服従させているのかは奴隷印の種類にもよるが……今はそんなことはどうでもいい。重要なのは、魔術はその術式さえ対象に刻むことが出来れば、生命に直接影響を与えられちまうって事だ」
「魔術は条件さえ満たせば望んだ効果を直接対象へ与えることが出来る。あくまで間接的にしか相手を攻撃できない現代の魔法とは異なる部分だわ。……それで、それを明らかにした貴方は何が言いたいの?」
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