上 下
490 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

171-2.魅了の魔術

しおりを挟む
「……っ!」
「脅威有りと見なされる古代魔導具の殆どは闇魔法が絡んでいる。生命に影響を与える物や精神に絡んだ物……闇魔法は他者を攻撃するには都合が良い効果を齎すからな」
「元より争い事の為に生まれた道具ならば尚更だ。それの脅威が高い程、闇魔法の中でも強い効力を持つ魔術を組み込まれているものだ」

 闇魔法と聞いてクリスティーナ達三人の頭を過るのは魔族の存在だ。その言葉に三人の間を僅かな緊張が走る。
 押し黙る三人の代わりにと古代魔導具に携わってきたオリヴィエが詳細を語り、ディオンはそれの補足をした。

「隠し部屋と、その傍で引き籠るようになった話から考えるに……ジョゼフ・ド・オリオールが古代魔導具に相当執着していそうだ。そしてそれが本人の純粋な欲求からのみ来ている感情ではないとオレは考えている」
「……魅了か」
「そういうことだ」

 以前に似た様な効果を持つ魔導具に携わった経験があるのか、オリヴィエがディオンの仄めかしていた『二つ目の機能』を言い当てる。
 古代魔導具に通じている訳ではないクリスティーナ達ではあるが、それでも『魅了』という言葉で連想させられる物があった。

 闇魔法は聖魔法と同じく謎の多い魔法だ。だがその中でも『魅了』の存在は有名な話であった。
 闇魔法の中には人の精神に影響を及ぼす物も多い。中でも『色欲』の魔族アモデウスは男女選ばず自身の虜にさせてしまう『魅了』の魔法を解く意図していたという。
 『魅了』を掛けられたものは対象に妄執的になる、好意の対象は必ずしもアモデウス自身でなければならない訳ではなく、それが物へ向けられるよう仕向けられることもあったという。

 『魅了』は闇魔法の中でもわかっていることが多い類の魔法。
 魔族の扱う魔法の詳細を知った者が同じ効果を齎す術式を完成させてさえいれば魔族でなくとも『魅了』の魔法を扱うことは出来る。

 今回の古代魔導具はそうして出来上がった物であるかもしれない。それがディオンの見解であった。

「『魅了』で特定の人物を古代魔導具に妄執させる。わざわざ術を組むって事はそうするメリットが当時の開発者共にはあったってことだ」
「では、とりあえず……あの古代魔導具は植物化と『魅了』の二つの効力を兼ね備えているという事?」
「機能の面の話だけをするのであれば、そうだ。これだけでも十分厄介且つ危険極まりないが……恐らく今回はそれで片付けられる物じゃあない」
「他にも何か懸念点が……?」
「そういうこと……なんだが、この話をする前に話しておかなくちゃなんねぇことがあるな」

 ジルベールは不安を滲ませ、顔を青くさせながら真剣な眼差しでディオンに答えを求める。
 今一度その場の全員の視線を集めた彼は目頭を揉んで顔を顰めてから、苦々しく笑った。

「魔術ってのはなぁ……無生物以外にも組み込めちまうんだよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

悪役令嬢ですが最強ですよ??

鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。 で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。 だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw 主人公最強系の話です。 苦手な方はバックで!

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚

水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ! そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!! 最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。 だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。 チートの成長率ってよく分からないです。 初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。 会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!! あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。 あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。

アブストラクト・シンキング 人間編

時富まいむ(プロフ必読
ファンタジー
訳ありでここに連載している小説をカクヨムに移転、以降の更新をそちらで行います。 一月末まで公開しております 侵食した世界に隠された真実を子供たちは受け入れるのか、それとも・・・

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

処理中です...