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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

169-2.新たに生まれる疑問

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 慕っていた相手の犯行。それが否定できない段階まで証拠が集まってしまった事が、彼の顔を曇らせているのだろう。
 だが、どのような理由があり、元がどれだけ善人であったとしても相手が背負う業から目を背けてはならない。

「貴方の話が事実であろうがなかろうが、彼が許されない事を犯しているという事実は消えないわ。この件の解決を望むのなら情に流されては駄目よ」
「……はい。ご忠告、ありがとうございます」

 多くの人間を手に掛け、大切な者ですらいつその手中に落ちてもおかしくはない。過去の記憶がどれだけ美しくとも今起きていることから目を逸らしてはならない。

 今一度、自身の目的を思い返したジルベールは気持ちを切り替える様に首を横に振ると力なく微笑んだ。



 シャルロットと合流を果たしたクリスティーナ達は夕刻までの時間を書庫から借りて来た本を読む事やその内容について語らう事に費やした。
 そして空が橙に染まり始めた頃、クリスティーナ達はシャルロットと別れを告げて館の門へと向かった。

「私が人目を避けて館を離れられるのは夜間のみになりますから、また今晩、昨晩と同じ場所で落ち合ってから報告へ向かいましょう」
「わかったわ」
「それでは、また後程」

 ジルベールに見送られながらクリスティーナ達はオリオール邸の敷地から外へ出る。
 だが、胸の内に過る複雑な気持ちに後ろ髪を引かれたクリスティーナは、数歩足を進めた後にジルベールが立つ方へと振り返る。

「貴方、この後はどうするの」
「この後、というのは……」
「ディオン・ベルナールへ報告した後の事よ。役目を全うした後、オリオール邸を離れると言っていたでしょう」

 クリスティーナの言葉の意図を理解したジルベールは納得したように頷く。

「そうですね、そのつもりです。とはいえ何も言わず職務を放棄した立場で実家へ戻れば家族に迷惑を掛けてしまいますから、暫くは人目のつかない場所で息を潜めて過ごそうかと」
「……そう」
「ご心配なさらず。自衛程度ならばできますから」
「目を閉じてしまうのに?」
「それを言われてしまうと弱いので勘弁していただけると嬉しいです。……それに、あくまでこの件が解決するまでの間です」

 容赦ない指摘にジルベールは苦々しく笑う。
 頬を掻いて視線を逸らす彼の困った様は、従者としての役割を全うしている際や館を探索していた時の真面目な雰囲気とは程遠い。

「きっと、此度の真相が明らかになれば旦那様が咎められる事、オリオール家の信用が世から失われることは避けられないでしょう。旦那様が罪に問われ、捕らえられれば私の安全が保障されると同時にシャルロット様が一人取り残されてしまう。ですから、シャルロット様が悲しまれない様、私はお傍に戻るつもりでいます」
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