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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

168-1.致命的な癖

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 クリスティーナ達は倉庫から離れ、本館へと向かって歩みを進める。

「先程はありがとうございました」
「いいえ。ご無事な様で何よりです」

 先導するジルベールへリオが声を掛ける。
 緩やかに首を横へ振りつつも、ジルベールは気遣うような視線を彼へ向けた。

「それよりも、やはりお休みになられた方が良いのでは?」
「歩いている分には問題ありません。薬剤の作用も徐々に薄れている事は感じられますし、次第に落ち着くでしょう」
「……畏まりました」

 ジルベールはリオの話に頷くと素直に引き下がる。

 リオの消耗について、クリスティーナやジルベールは気掛かりであったし当の本人も自覚していた以上に影響が出ている事は悟っていた。
 そこで一度シャルロットの元へ戻り、エリアスと交代をすべきではという案も出たのだが、シャルロットの見舞いという名目で訪れているクリスティーナ達が長時間の離席に加えて二度も部屋を離れる事はいくら寛容なシャルロットであっても不審に思うはずだという結論に三人は至った。

 幸いにもクリスティーナの『闇』を認知する能力は必ずしも発生源との距離を詰めなければならない訳ではない。
 隠し部屋に置かれた古代魔導具の気配は部屋を跨いでも感じ取ることが出来るものであったし、『闇』を実際に何度も目の当たりにしてきた経験と感覚から発生源が孕む危険度は『闇』の濃さと関係があるのだろうことも察しが付いている。

 それはつまり、一部屋ずつ確認をせずとも廊下を歩き回るだけである程度の脅威の有無は察知することが出来るという事だ。

 更に至近距離でしか感じることが出来ない程度の『闇』であれば取締局が特別警戒している古代魔導具ではない可能性が高いと言えるだろう。
 そしてシャルロットに影響を与えている古代魔導具は既に見つけていることから、クリスティーナやジルベールの立場からも危険度が比較的低い古代魔導具の発見に対する優先順位も低いと言える。
 つまり、無理に一部屋ずつを確認する必要はないという結論に至る訳だ。

 これであれば再度脅威に晒される可能性は低くなり、リオに負担を強いる事も無くなる。

 古代魔導具に無暗に近づく事さえなければ脅威がクリスティーナ達へ及ぶ可能性も低い。リオに負担を強いる事も避けられるだろう。故にクリスティーナ達はリオとエリアスを交代させるのではなく、なるべく早く本館の廊下を回る事としたのだ。

 本館内を歩き回り、隠し部屋とは別の位置から脅威を感じ取った場合はその位置だけを把握して離れる。そしてジョゼフの帰宅までに余裕があった場合のみ、シャルロットと別れた後、宿へと戻る前に該当箇所の確認へ向かう。
 これが話し合いの末に三人で決定した行動方針であった。

 リオの言葉にジルベールがあっさりと引き下がったのも、直前に話し合って決めた方針があったから。彼が声を掛けたのは作戦に意義があるというよりも、リオが本当に無理をしてはいないかを確認する為の物だったのだろう。

 やがて辿り着いた本館の裏口をジルベールが静かに開き、クリスティーナとリオを招き入れる。
 そして三人は人が少ない廊下を進んだ。
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