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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
164-2.抗弁
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「粗方見て回りましたが、特に気になるところはない……ということですね」
「ええ」
庭や離れ等、敷地の隅々まで歩いて回ったがこれといった収穫は特になし。
だが、今回に限って言えばそれは喜ばしいことだ。
「ではもう一か所だけ見てから本館へ戻りましょう」
「次はどこへ行くの?」
「倉庫です。元は庭師が庭の整備に使う道具等を保管しておりましたが、少々離れた場所にあり、使い勝手が悪かったことから現在は使われていません。だからこそ物を隠すには都合がいいとも考えられます」
「確かに一度見ておいた方がいいわね」
外れにある、用途も失った倉庫へわざわざ近づく使用人はいないだろう。他者に見られたくない物を隠すにはうってつけの場所だ。
ジルベールの提案に頷き、クリスティーナは彼の背を追って歩く。
だが彼の言う倉庫が姿を見せるよりも先。木々の陰を利用して三人が移動をしている最中、クリスティーナは身の毛がよだつような悍ましさを感じる。
突然の気配に怯み、思わず足を止めればそれに気付いたリオとジルベールが彼女へと振り向いた。
「……この先に貴方の言う倉庫があるのよね」
「その通りですが……クリス様、まさか」
クリスティーナの青白い顔色に気付き、彼女の言わんことを悟るジルベール。
それを肯定するように首を振り、クリスティーナは進行方向を見据えた。
「何かあるわ。先程のようなことが起きるかもしれないから、気を付けていきましょう」
「はい」
「畏まりました」
一行を包む張り詰めた空気。何が起きても迅速に対応ができるようにと一人一人が気を引き締めたまま足を進めた。
やがて三人の前へ現れたのは手入れを倉庫にしては大きい、小屋のような作りの建造物だ。
だがその周辺は雑草や蔦が茂り、閂の金属部分も錆付いていて手入れが行き届いていないことが見て取れる。
もう使われていないというジルベールの言葉は正しいようだ。
しかしクリスティーナは自身を襲う背筋を凍り付かせるほどの悪寒と心臓を握られているかのような嫌悪感から、この先に何かがあるという確信を得る。
それは本館で感じた気配に比べれば幾分も優しい類のもののように感じられたが、それでも気を抜いてはならない。
ジルベールは懐から例の剣柄を取り出すと己の魔力を使って剣先を作り出す。
「私が行きましょう」
「よろしいのですか」
「リオ様は本調子ではありませんし、クリス様は最前で体を張るべきお方ではないはず。……先程のリオ様のおっしゃった、適材適所という言葉を借りるのであればこの役は私が引き受けるのが妥当……そうではありませんか?」
ジルベールは冗談めかしに微笑む。
リオはその返しに目を丸くした後、困ったように眉を下げて笑い返した。
「一本取られましたね」
「お二人にいつまでも甘えさせていただく訳にもいきませんから。少しは力添えさせてください」
ジルベールは閂を外すとドアノブに手を掛け、クリスティーナとリオへ振り向く。
開けても良いかと問う視線にクリスティーナが頷くと彼は再び倉庫へと向き直り、触れていた戸をゆっくりと開けた。
「ええ」
庭や離れ等、敷地の隅々まで歩いて回ったがこれといった収穫は特になし。
だが、今回に限って言えばそれは喜ばしいことだ。
「ではもう一か所だけ見てから本館へ戻りましょう」
「次はどこへ行くの?」
「倉庫です。元は庭師が庭の整備に使う道具等を保管しておりましたが、少々離れた場所にあり、使い勝手が悪かったことから現在は使われていません。だからこそ物を隠すには都合がいいとも考えられます」
「確かに一度見ておいた方がいいわね」
外れにある、用途も失った倉庫へわざわざ近づく使用人はいないだろう。他者に見られたくない物を隠すにはうってつけの場所だ。
ジルベールの提案に頷き、クリスティーナは彼の背を追って歩く。
だが彼の言う倉庫が姿を見せるよりも先。木々の陰を利用して三人が移動をしている最中、クリスティーナは身の毛がよだつような悍ましさを感じる。
突然の気配に怯み、思わず足を止めればそれに気付いたリオとジルベールが彼女へと振り向いた。
「……この先に貴方の言う倉庫があるのよね」
「その通りですが……クリス様、まさか」
クリスティーナの青白い顔色に気付き、彼女の言わんことを悟るジルベール。
それを肯定するように首を振り、クリスティーナは進行方向を見据えた。
「何かあるわ。先程のようなことが起きるかもしれないから、気を付けていきましょう」
「はい」
「畏まりました」
一行を包む張り詰めた空気。何が起きても迅速に対応ができるようにと一人一人が気を引き締めたまま足を進めた。
やがて三人の前へ現れたのは手入れを倉庫にしては大きい、小屋のような作りの建造物だ。
だがその周辺は雑草や蔦が茂り、閂の金属部分も錆付いていて手入れが行き届いていないことが見て取れる。
もう使われていないというジルベールの言葉は正しいようだ。
しかしクリスティーナは自身を襲う背筋を凍り付かせるほどの悪寒と心臓を握られているかのような嫌悪感から、この先に何かがあるという確信を得る。
それは本館で感じた気配に比べれば幾分も優しい類のもののように感じられたが、それでも気を抜いてはならない。
ジルベールは懐から例の剣柄を取り出すと己の魔力を使って剣先を作り出す。
「私が行きましょう」
「よろしいのですか」
「リオ様は本調子ではありませんし、クリス様は最前で体を張るべきお方ではないはず。……先程のリオ様のおっしゃった、適材適所という言葉を借りるのであればこの役は私が引き受けるのが妥当……そうではありませんか?」
ジルベールは冗談めかしに微笑む。
リオはその返しに目を丸くした後、困ったように眉を下げて笑い返した。
「一本取られましたね」
「お二人にいつまでも甘えさせていただく訳にもいきませんから。少しは力添えさせてください」
ジルベールは閂を外すとドアノブに手を掛け、クリスティーナとリオへ振り向く。
開けても良いかと問う視線にクリスティーナが頷くと彼は再び倉庫へと向き直り、触れていた戸をゆっくりと開けた。
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