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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

162-1.隠されていた物

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「これはまた、随分と厳重ですね」

 この先に何かがあると言わんばかりに丈夫な鉄扉。その閂を躊躇うことなく外しながらリオは呟いた。

「リオ」
「わかってます。何かあればすぐに下がります」

 皆まで言われずとも主人の言いたいことを悟るリオ。
 彼はクリスティーナの望んだ答えを返すと鉄扉をゆっくりと開いた。

 重く軋む音を響かせながら、リオはその先に続く空間を確認する。
 角度の都合から、その光景を廊下のクリスティーナ達は把握することが出来ない。しかし鉄扉を開けたその時、クリスティーナの胸中を渦巻いていた不快感が膨れ上がった。
 部屋中を埋め尽くす『闇』の根源。それがこの先にあるのだという確信をクリスティーナへと与える。

「小部屋ですね。恐らく建設当初は緊急時の脱出経路を考慮して作られたものであることを考慮すれば、どこかに装置でもあるのでしょうが……一見してわかるような物ではないようです」
「魔導具らしきものは見つけられそう?」
「ええ」

 クリスティーナやジルベールにもわかる様、リオが状況を説明する。
 そして内部の詳細を更に求めるようクリスティーナが問いを投げれば彼は頷きを返した。

「部屋の中央、両手で漸く持ち運べる程の橙色の宝石が一つ台座に乗せられています。むしろそれ以外に物がないと言って差し支えないでしょう……が」

 リオはそこで言葉を切り、怪訝そうに眉根を寄せる。
 どうかしたのかとクリスティーナが問うよりも先に、彼は低めた声で呟いた。

「これは……枝?」
「枝?」
「はい、部屋の至る所に枝が張り巡らされており――」

 やや早口で状況が伝えられる。だが、その報告は途中でクリスティーナが遮ることとなる。

 突如、膨れ上がる嫌悪感、そしてまるで頭から冷水を被ったかのような悪寒がクリスティーナの体中を駆け巡った。
 小部屋の様子を直視することが叶わずとも悟る程の大きな危機感。それをクリスティーナが感じ取った一方でリオもまた僅かに目を見開いた。

 クリスティーナとは違う形で異変を感じ取ったのだろう。だが彼が何を見たのか、確認を取る余裕をクリスティーナは持ち合わせていなかった。

「っ、リオ! 下がりなさい!」

 鋭く発せられた指示。それを聞き届けるや否や、リオは大きく後方へと飛び退いた。
 小部屋から距離をとったリオの前髪をどす黒い闇が掠める。

 小部屋からリオ目掛けて飛び出した『闇』。それは最早煙などという喩えよりも汚泥といった表現が似つかわしい程に黒く、色濃い姿をしていた。
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