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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

160-1.脅威の在処

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 一切の躊躇なく部屋の真ん中まで突き進んだリオは口元を袖で覆ったまま辺りを見回す。
 壁と隣接する様置かれた展示用の大きな棚が左手と窓際に一つずつと右手に本棚が一つ。更に扉の両脇に小さな棚が二つ。こちらも貴重品の管理の為の物らしく、中には価値ある物が収まっていた。それらは扉の働きを妨げることのない様に気を遣った配置が成されている。

 家具の配置を確認した上でリオは机の引き出しへと回り込む。

「骨董品や装飾品等は棚に置かれている物が全ての様に思えますが……気に掛かる場所はありますか?」
「……少し待って頂戴」
「畏まりました」

 返答に頷きを返すとリオは机の棚を一つずつ検め始める。
 一方でクリスティーナは眉根を寄せながら部屋の中を観察し続けた。部屋中を満たしている黒い霧の濃さはその出所を辿ることすら困難にさせる程である。
 部屋の天井、壁、床……至る所から発生している様にすら思える様だが、必ずこの状況を作った原因がどこかに存在している。

 机の上の物、高い位置に配置された時計、壁に飾られた物、並べられた本……可能な限り一つ一つを慎重に観察していく。
 室内を蠢く煙はその殆どを撫でるように通過する動きだけ見せる。そこから溢れ出しているのではなく、あくまで通り過ぎるだけ。つまりそれらはこの黒い靄の原因ではないという証拠。

「……おや、鍵が掛かっていますね」

 いくつ目かに手を伸ばした引き出しが引っ掛かり、リオが呟く。
 引き出しを何度か軽く引きながら、鍵が掛かっていることを確認すると彼はポケットの中から針金を取り出した。

「致し方ありませんね」
「リオ様……!?」

 引き出しの前に膝をつき、鍵穴へ針金を差し込んだ彼は器用に片手で操作する。するとやがて開錠される音が小さく鳴った。

「開きました」
「……彼は鍵を開けられるの」
「お嬢様は幼い頃、なかなかにやんちゃでして。かくれんぼの際に内側から鍵を掛けたことも忘れて収納の中で泣いてしまうことや不得意な授業から逃げる為に閉じこもる事が何度か……」
「早く確認をしなさい」
「おっと、気を悪くされてしまったようですね」

 主人の過去の痴態を語り出した不敬な従者の声をクリスティーナは遮った。
 その語気の強さにリオは肩を竦め、素直に従う。

「俺では魔導具かどうかも判断がつきかねますね。……わかりやすく術式の施された物以外は」

 鍵の掛けられていた引き出しの中、入っていた物を確認したリオは指示を仰ぐようにクリスティーナへ視線を投げる。

「そちらへ持って行きましょうか」
「……そうね。危険を感じたらすぐに手放しなさい」
「畏まりました」

 どうやら引き出しにしまい込まれていた物の数はさほど多くないらしい。
 リオは中にあった物を手に取ると素早くクリスティーナ達の元へと戻った。
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