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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
158-2.排除対象
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「表向き離職した使用人が姿を見せなくなる度に悲しまれていた方ですから、私が館を離れればきっとシャルロット様は同じ様にお思いになることでしょう。……しかし、あの方の為に動いた結果、私の身に何か起これば、それこそあの方の一生の重荷になってしまう。それだけは避けなければなりませんから」
「主人の為にも無茶はしない。その心積もりはあるってことか」
「ええ。……啖呵を切った手前申し訳ないのですが、私がクリス様方をお守りできるのは長くても数日程度になってしまうかと思います」
申し訳なさそうにジルベールは頭を下げる。
それを視線で追いながら、クリスティーナは静かに答える。
「構わないわ。無茶をされて何かあった時の方が寝覚めが悪そうだもの。……それに、あの子が泣くのを慰めるのも骨が折れそうだわ」
「お嬢様は約束の変更についてよりも貴方のご心配なさっているとのことです、ジルベール様」
「リオ、適当なことを言わないで」
「……ありがとうございます」
相も変わらず素直になれない主人の言葉はリオが代わりに口にする。
それを否定するようにクリスティーナが口を挟むも、それが照れ隠しであることは本人に悟られてしまい、ジルベールは小さく笑むと丁寧に頭を下げたのだった。
***
オリオール邸の館を歩くクリスティーナ、リオ、ジルベールの三人。
移動中、クリスティーナが口にした『本当に大丈夫なのか』という問いはジョゼフから目を付けられているだろうジルベールの立場を案じた物だ。
ジョゼフからのアクションはまだないのか、これ以上目立った行動をすればまずいのではないか。そんな疑問を纏めた短い問いだったのだが、その意図は正しく本人へ伝わったらしい。
「問題ありません。私は昨晩から旦那様にお会いしておりませんし、今の時間は旦那様が外出中ですから多少大きく動き回ってもそれを目撃される恐れもありませんから」
「そう」
穏やかに笑みを返され、クリスティーナはそれ以上無暗に問うのをやめる。
今注意を向けるべきはジルベールではなく自分にしか視認できない闇の気配だ。
それを辿って進む度、一層高まる重圧感に息を詰まらせながらクリスティーナは昨日は入ることの出来なかった部屋へと近づいていく。
やがて建物の端へ辿り着いたクリスティーナが足を止め、リオとジルベールへと振り返った。
「……やはりこちらなのですね」
「まだ確証はないけれど、可能性は高いと思うわ」
ジルベールの重く暗い呟きにクリスティーナは頷く。
そして彼女はリオとジルベールへ目配せをした。
それを合図にクリスティーナとリオは昨晩受け取った眼鏡と手袋を、ジルベールは以前ディオンから渡されていたという同様の道具を装着する。
互いに支度を終えてから再び扉へ向き直る三人。
「中に人の気配はありません」
「……そう」
隠密行動に長けたリオからの言葉に短く返事をしてからクリスティーナは扉へ手を掛ける。
ひしひしと感じる嫌悪感。警鐘を鳴らす脳。それらを抱えたクリスティーナの体は酷く緊張し、冷や汗を流す。
体内を渦巻く吐き気や悪寒。それらを無理矢理抑え込みながら彼女は扉をゆっくりと開いたのだった。
「主人の為にも無茶はしない。その心積もりはあるってことか」
「ええ。……啖呵を切った手前申し訳ないのですが、私がクリス様方をお守りできるのは長くても数日程度になってしまうかと思います」
申し訳なさそうにジルベールは頭を下げる。
それを視線で追いながら、クリスティーナは静かに答える。
「構わないわ。無茶をされて何かあった時の方が寝覚めが悪そうだもの。……それに、あの子が泣くのを慰めるのも骨が折れそうだわ」
「お嬢様は約束の変更についてよりも貴方のご心配なさっているとのことです、ジルベール様」
「リオ、適当なことを言わないで」
「……ありがとうございます」
相も変わらず素直になれない主人の言葉はリオが代わりに口にする。
それを否定するようにクリスティーナが口を挟むも、それが照れ隠しであることは本人に悟られてしまい、ジルベールは小さく笑むと丁寧に頭を下げたのだった。
***
オリオール邸の館を歩くクリスティーナ、リオ、ジルベールの三人。
移動中、クリスティーナが口にした『本当に大丈夫なのか』という問いはジョゼフから目を付けられているだろうジルベールの立場を案じた物だ。
ジョゼフからのアクションはまだないのか、これ以上目立った行動をすればまずいのではないか。そんな疑問を纏めた短い問いだったのだが、その意図は正しく本人へ伝わったらしい。
「問題ありません。私は昨晩から旦那様にお会いしておりませんし、今の時間は旦那様が外出中ですから多少大きく動き回ってもそれを目撃される恐れもありませんから」
「そう」
穏やかに笑みを返され、クリスティーナはそれ以上無暗に問うのをやめる。
今注意を向けるべきはジルベールではなく自分にしか視認できない闇の気配だ。
それを辿って進む度、一層高まる重圧感に息を詰まらせながらクリスティーナは昨日は入ることの出来なかった部屋へと近づいていく。
やがて建物の端へ辿り着いたクリスティーナが足を止め、リオとジルベールへと振り返った。
「……やはりこちらなのですね」
「まだ確証はないけれど、可能性は高いと思うわ」
ジルベールの重く暗い呟きにクリスティーナは頷く。
そして彼女はリオとジルベールへ目配せをした。
それを合図にクリスティーナとリオは昨晩受け取った眼鏡と手袋を、ジルベールは以前ディオンから渡されていたという同様の道具を装着する。
互いに支度を終えてから再び扉へ向き直る三人。
「中に人の気配はありません」
「……そう」
隠密行動に長けたリオからの言葉に短く返事をしてからクリスティーナは扉へ手を掛ける。
ひしひしと感じる嫌悪感。警鐘を鳴らす脳。それらを抱えたクリスティーナの体は酷く緊張し、冷や汗を流す。
体内を渦巻く吐き気や悪寒。それらを無理矢理抑え込みながら彼女は扉をゆっくりと開いたのだった。
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