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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
158-1.排除対象
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ジルベールの返答に真っ先に噛みついたのはディオンだ。
「警戒対象ってお前っ……目を付けられたのか!? あれだけ気を付けろっつったのに、何をしたんだ」
「申し訳ありません。ただ、この停滞した状況を打破する為に必要なことだと判断したのです」
「……どういうこと?」
ジルベールの口振り、そしてディオンの反応から事が深刻であることは察することが出来る。
だがそれでも彼ら二人とクリスティーナ達との間に認識の差があることは明白。故にクリスティーナは詳しい説明をジルベールへと求めた。
「旦那様がクリス様とリオ様をお部屋へお招きになった際、私がそれを遮ったことは覚えていらっしゃると思います」
「ええ」
「……旦那様は本来、あの部屋には滅多に人を入れないのです。使用人が近づくことすら嫌う程の徹底ぶりであるはずにも拘らず、突然気まぐれに客人を招き入れる等……旦那様が変わられてからは考えられない様な光景でした」
ジルベールは膝の上へ乗せた手を静かに握った。
「旦那様が人を近づけない部屋へ辿り着いたクリス様方がディオン様の仰っていた方なのではないかという推測と同時に、嫌な予感がしたのです。……このまま見過ごせば貴方方も姿を消してしまうのではないかと――いなくなった使用人達の様になるのではという予感が」
彼は深く息を吐く。その面持ちはどこか思いつめた物であったが、周囲に気を遣わせない為か彼はすぐにぎこちなく笑った。
「真相へ近づくきっかけとなるかもしれない方々。この停滞した状態を長く経験した私にとっては必要な人材でした。ですから、皆様がお力を貸してくださることに賭け、旦那様の足を止めたのです」
クリスティーナは当時のことを思い出す。
自分達を庇う様に立ち塞がったジルベール。彼が隠し切れなかった小さな震えの理由は自身に降り掛かるかもしれない危機を悟ってのことだったのだろう。
「その場をやり過ごすべく咄嗟に嘘を吐きはしましたが、その不自然さには旦那様も気付いておられることでしょう。そして警戒心の高い旦那様は近々私を呼び出すはずです」
「……こいつから聞いた話では失踪した使用人の殆どはジョゼフ・ド・オリオールに歯向かったり反感の意を見せた奴ららしい。あいつの警戒心の高さや目的の為に躊躇しない性質を考慮すれば、邪魔者どころか警戒の対象になる者を易々と切り捨てる可能性も大いにある」
「つまり仮に今後貴方が呼び出され、それに応じれば……今までの失踪者と同様、姿を消すことになるかもしれないという事よね」
ジルベールは静かに肯定する。
クリスティーナ達を庇ったことは彼にも利するところがあったからとして、自身に迫る危機がわかっているのならば何故今すぐにでも距離をとらないのかとクリスティーナは咎めるように彼を見やる。
だが、その厳しい視線を諭すようにジルベールは苦笑した。
「ご心配なさらないでください。勿論近いうちに館から離れ、身を隠すつもりではいます。しかし……クリス様方が館の調査を行うのであれば、一人は建物に精通した者がいた方がいいでしょう。館の内部についてであれば多少なりともお役に立てるはずです」
「なるほど、確かに内部の協力者がいる状況は心強いですね。……だからジルベール様が姿を消す必要が出る前に調査を進めることが好ましい、と。そういう事ですね?」
「ええ」
ジルベールが行動を急く理由をリオが要約し、それに頷きが返される。
微笑を湛えたまま、ジルベールは物悲し気に睫毛を伏せた。
「警戒対象ってお前っ……目を付けられたのか!? あれだけ気を付けろっつったのに、何をしたんだ」
「申し訳ありません。ただ、この停滞した状況を打破する為に必要なことだと判断したのです」
「……どういうこと?」
ジルベールの口振り、そしてディオンの反応から事が深刻であることは察することが出来る。
だがそれでも彼ら二人とクリスティーナ達との間に認識の差があることは明白。故にクリスティーナは詳しい説明をジルベールへと求めた。
「旦那様がクリス様とリオ様をお部屋へお招きになった際、私がそれを遮ったことは覚えていらっしゃると思います」
「ええ」
「……旦那様は本来、あの部屋には滅多に人を入れないのです。使用人が近づくことすら嫌う程の徹底ぶりであるはずにも拘らず、突然気まぐれに客人を招き入れる等……旦那様が変わられてからは考えられない様な光景でした」
ジルベールは膝の上へ乗せた手を静かに握った。
「旦那様が人を近づけない部屋へ辿り着いたクリス様方がディオン様の仰っていた方なのではないかという推測と同時に、嫌な予感がしたのです。……このまま見過ごせば貴方方も姿を消してしまうのではないかと――いなくなった使用人達の様になるのではという予感が」
彼は深く息を吐く。その面持ちはどこか思いつめた物であったが、周囲に気を遣わせない為か彼はすぐにぎこちなく笑った。
「真相へ近づくきっかけとなるかもしれない方々。この停滞した状態を長く経験した私にとっては必要な人材でした。ですから、皆様がお力を貸してくださることに賭け、旦那様の足を止めたのです」
クリスティーナは当時のことを思い出す。
自分達を庇う様に立ち塞がったジルベール。彼が隠し切れなかった小さな震えの理由は自身に降り掛かるかもしれない危機を悟ってのことだったのだろう。
「その場をやり過ごすべく咄嗟に嘘を吐きはしましたが、その不自然さには旦那様も気付いておられることでしょう。そして警戒心の高い旦那様は近々私を呼び出すはずです」
「……こいつから聞いた話では失踪した使用人の殆どはジョゼフ・ド・オリオールに歯向かったり反感の意を見せた奴ららしい。あいつの警戒心の高さや目的の為に躊躇しない性質を考慮すれば、邪魔者どころか警戒の対象になる者を易々と切り捨てる可能性も大いにある」
「つまり仮に今後貴方が呼び出され、それに応じれば……今までの失踪者と同様、姿を消すことになるかもしれないという事よね」
ジルベールは静かに肯定する。
クリスティーナ達を庇ったことは彼にも利するところがあったからとして、自身に迫る危機がわかっているのならば何故今すぐにでも距離をとらないのかとクリスティーナは咎めるように彼を見やる。
だが、その厳しい視線を諭すようにジルベールは苦笑した。
「ご心配なさらないでください。勿論近いうちに館から離れ、身を隠すつもりではいます。しかし……クリス様方が館の調査を行うのであれば、一人は建物に精通した者がいた方がいいでしょう。館の内部についてであれば多少なりともお役に立てるはずです」
「なるほど、確かに内部の協力者がいる状況は心強いですね。……だからジルベール様が姿を消す必要が出る前に調査を進めることが好ましい、と。そういう事ですね?」
「ええ」
ジルベールが行動を急く理由をリオが要約し、それに頷きが返される。
微笑を湛えたまま、ジルベールは物悲し気に睫毛を伏せた。
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