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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

155-2.悪女たる微笑

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「なら改めて交渉成立だな。色々と訳ありな様に見えるが、名前くらいは聞いてもいいかね」
「クリスと呼んで頂戴。彼らはリオとエリアス」
「ありがとよ」

 ディオンの差し出した手に応える為、クリスティーナも手を伸ばす。
 細く白い手は一回りも二回りも大きくしっかりとした掌に包まれた。

「じゃあ、よろしく頼むぜ。クリスに、リオとエリアス」


***


 軽い自己紹介を終えたところで一同は今後の方針を共有する。
 机の縁に凭れ掛かる様に腰を掛けながらディオンが口を開いた。

「大事な話ってのは忘れる前に済ませるに限る。早速だが嬢ちゃん達にはオリオール邸の内部を調べて欲しいんだ」
「古代魔導具の有無を確かめる為、よね。仮に発見した場合はどうすればいいのかしら。残念ながら実物を見るだけではそれが齎す効果まではわからないと思うわ」
「構わない。それが保管されている場所と、魔導具の見た目の特徴を押さえてくれればいい。寧ろ回収は危険な場合もあるから無理に行わなくていい」
「発見後、回収せず離脱していいという事ね」
「ああ」

 ディオンは頷きを返すと後方に配置された棚へと向かう。
 その引き出しの中から手袋と眼鏡を三人分出すとクリスティーナとリオ、エリアスのそれぞれへ投げて寄越した。

「これは?」

 目の前に迫る物に対しクリスティーナが身構えたところを代わりにリオが受け止める。
 二人分の眼鏡と手袋を受け取ったリオがその内一組を主人へ差し出し、それを受け取りながらクリスティーナは問い掛ける。

「詳しい効果がわからない古代魔導具ってのは何が起こるか分かったもんじゃない。視覚に影響を与える物や肌での接触をきっかけに起動する物等、多岐に渡る訳だ。眼鏡と手袋はそれらの魔導具に当たった際に装着者の身を守ってくれる魔導具だ」

 貴重な物だから持ち逃げするなよという冗談めかしの声を聞き流しながらクリスティーナは手元の眼鏡と手袋を見つめる。
 一見するだけならば何の変哲もないような物達。だが、よくよく観察すれば眼鏡のフレームの裏や手袋の裏地には細かな文字が刻まれており、それらが魔導具であることが分かった。

「それだけ用意しておけば初見殺しなんて物に嵌ることもないだろう」

 引き出しを閉めるディオンは受け取った魔導具を観察する三人へ視線を戻し、笑みを深めた。

「お前達に炙り出して欲しいのはオリオール邸に隠された脅威を齎す古代魔導具の有無、存在する場合はその数、そして保管場所だ。可能であれば失踪者の行方や古代魔導具の効果などの詳細な情報も欲しい所だが……この辺りは余裕があればで構わない」

 渡された道具を懐へしまい込む三名。
 その作業をクリスティーナ達が終えたところでディオンは不敵に笑った。

「頼んだぞ、ルーキー共」
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