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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

154-2.協力の要請

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「なら……どうするつもりだったのかしら」
「今までは魔導具の効果を探るのが最優先事項だった。どんな脅威も、齎す影響を把握できさえすれば対処できるもんだ」
「現時点でわかっているのは精神に作用する効果と対象者の体を内側から蝕んでいくこと程度ですが……。発動条件や魔導具の術の対象となる条件を把握できれば奪取までの道筋を立てることも可能、とのことだそうです」
「わかっていることが大まか過ぎるのではないかしら。随分と悠長な計画になりそうね」
「それ以外に手段がないんだ。生憎こちらは人手不足、向こうはこの街最大の権力を誇る領主だぞ? 慎重に動かざる得なかったんだ。……だからこそ、だ」

 クリスティーナの手厳しい評価にディオンは肩を竦める。
 だがすぐに彼は薄く笑みを浮かべるとクリスティーナを指さした。
 自分がどうかしたのかとクリスティーナが眉根を寄せるが、相手はそれを気に留める様子もない。

「お前さんはオレの話を聞いて思ったはずだ。『国が秘匿している組織の素性をこうも簡単に部外者へ漏らしてもいいものか』と」

 クリスティーナは眉間の皺を更に深く刻む。それは図星であった。
 ディオンの話を聞く限り、古代魔導具取締局は機密性を重んじる組織であるはずだ。にも拘らずあまりにも口が軽いのは何故か。
 彼の話が嘘であるとまでは思わないが、何か企みくらいはあるのではないかという疑念が彼女の胸中には渦巻いていた。

 それを言い当てられ、顔を険しくさせたクリスティーナの反応をディオンは喉の奥で笑った。

「相手は領主。隠されているのは何名もの行方を簡単に掻き消してしまうだけの脅威を孕んだ魔導具。放っておけばその被害がどこまで影響を及ぼすかもわからず、それでいて相手の地位の高さ故に持ち主の行動を規制出来る立場の人間が少なすぎる。やろうと思えば奴さんは好き勝手出来る状況って訳だ」

 クリスティーナへ向けられるのは一見余裕の見える様な笑み。
 だがその目は鋭く光り、真剣さと僅かな焦りが滲んでいることをクリスティーナは見逃さなかった。

「どんな手段を講じても進展するきっかけが欲しい。……それだけ必死って事さ」

 組織の情報を他者へ漏らしたことが明らかとなればディオンは間違いなく咎められるだろう。
 それでも素性も明らかではないクリスティーナ達へ賭ける為に強行に出たのは、それだけ彼らが切羽詰まっているのだという事に他ならない。
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