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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

149-2.帯びた殺気

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 目の前の少年へ明らかな敵対心を見せる二人の行動。二人が明確な敵意を見せるという事はそうするだけの確信を得たという事。
 それを察したクリスティーナも二人からやや遅れる形で警戒心を抱くが、ジルベールだけが平常心を保っていた。

 目を丸くしてあざとく首を傾げる少年を見ながら彼は呆れたように息を吐く。

「ヴィートさん……。出てます、殺気が」
「え!? あー、ごめん! ついついうっかり……」

 ヴィートと呼ばれた少年はジルベールの指摘によって何かを察したのか両手を合わせて謝罪する。

「怖がらせるつもりなかったんだよぉ! ごめん! 怒んないで! ……ほら、ガイチクカイム? だから!」
「恐らく人畜無害ですね……」
「そーれーだ!」
「殺気は消えた……けど」
「……出会い頭で殺気飛ばしてくる方を信用しろというのは流石に難しいですよ」

 卓越した戦術と戦場での経験が培った代物だろう。クリスティーナには感じることの出来なかった殺気をいち早く感じ取ったらしいリオとエリアスは未だ警戒心を解けず身構えたままヴィートを見ていた。

「私も初めは同じでしたから、お気持ちはよくわかります……。まさか今日に限ってヴィートさんが応対係だとは……。まだ信頼していただけていないのにも拘らず更に信用を落とすことになるとは思いませんでした」
「なんだよー! おれだって応対くらいできるんだからね!」
「暗号より先に殺気の消し方を身に着けて欲しいものでしたね……」

 ジルベールは警戒を解けずにいる三人の様子に困り果て、目頭を押さえる。
 暫し呻いて考え込んでいたものの、やがて彼は暢気に口を尖らせて不貞腐れた態度を取るヴィートを恨めし気に一瞥してから口を開いた。

「……仕方ありません。私が間に立ちますし、お二人はそのままで構いません……ディオン様も事情を説明すれば察してくれるでしょうから」
「あ、そうそう。おっさんに会うんだよね。案内するよ」

 ヴィートは手招きをすると数段飛ばしで階段を下りていく。
 それを確認してから、ジルベールは不安そうに振り返る。
 恐らくは自身の信頼を失ったことで依頼を断られることを恐れているのだろう。

 リオとエリアスは未だ気が抜けない様子であったが、クリスティーナは小さく息を吐いてから彼に頷いてやることにした。

「……いいわ、行きましょう。今更退くのも性に合わないし、何かあっても対応してくれるだけの戦力はあるもの」
「えぇ……絶対やばいですよあの子」
「……お嬢様がそう仰るのであれば」
「気苦労をお掛けして本当に申し訳ありません……」

 護衛二人は乗り気ではないものの、主人の選択ならばと頷きを返し、ジルベールは泣きたいような気持ちを抑えて頭を下げる。
 やがてジルベールがヴィートを追いかけるように進み始めるが、先程まで頼もしかった背中は急にしおらしくなり、彼が肩を落としてしまう姿がクリスティーナにはありありとわかった。

 ディオンに会う前から起こった騒動に先を思いやられながらクリスティーナため息を吐いたのだった。
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