435 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
149-2.帯びた殺気
しおりを挟む
目の前の少年へ明らかな敵対心を見せる二人の行動。二人が明確な敵意を見せるという事はそうするだけの確信を得たという事。
それを察したクリスティーナも二人からやや遅れる形で警戒心を抱くが、ジルベールだけが平常心を保っていた。
目を丸くしてあざとく首を傾げる少年を見ながら彼は呆れたように息を吐く。
「ヴィートさん……。出てます、殺気が」
「え!? あー、ごめん! ついついうっかり……」
ヴィートと呼ばれた少年はジルベールの指摘によって何かを察したのか両手を合わせて謝罪する。
「怖がらせるつもりなかったんだよぉ! ごめん! 怒んないで! ……ほら、ガイチクカイム? だから!」
「恐らく人畜無害ですね……」
「そーれーだ!」
「殺気は消えた……けど」
「……出会い頭で殺気飛ばしてくる方を信用しろというのは流石に難しいですよ」
卓越した戦術と戦場での経験が培った代物だろう。クリスティーナには感じることの出来なかった殺気をいち早く感じ取ったらしいリオとエリアスは未だ警戒心を解けず身構えたままヴィートを見ていた。
「私も初めは同じでしたから、お気持ちはよくわかります……。まさか今日に限ってヴィートさんが応対係だとは……。まだ信頼していただけていないのにも拘らず更に信用を落とすことになるとは思いませんでした」
「なんだよー! おれだって応対くらいできるんだからね!」
「暗号より先に殺気の消し方を身に着けて欲しいものでしたね……」
ジルベールは警戒を解けずにいる三人の様子に困り果て、目頭を押さえる。
暫し呻いて考え込んでいたものの、やがて彼は暢気に口を尖らせて不貞腐れた態度を取るヴィートを恨めし気に一瞥してから口を開いた。
「……仕方ありません。私が間に立ちますし、お二人はそのままで構いません……ディオン様も事情を説明すれば察してくれるでしょうから」
「あ、そうそう。おっさんに会うんだよね。案内するよ」
ヴィートは手招きをすると数段飛ばしで階段を下りていく。
それを確認してから、ジルベールは不安そうに振り返る。
恐らくは自身の信頼を失ったことで依頼を断られることを恐れているのだろう。
リオとエリアスは未だ気が抜けない様子であったが、クリスティーナは小さく息を吐いてから彼に頷いてやることにした。
「……いいわ、行きましょう。今更退くのも性に合わないし、何かあっても対応してくれるだけの戦力はあるもの」
「えぇ……絶対やばいですよあの子」
「……お嬢様がそう仰るのであれば」
「気苦労をお掛けして本当に申し訳ありません……」
護衛二人は乗り気ではないものの、主人の選択ならばと頷きを返し、ジルベールは泣きたいような気持ちを抑えて頭を下げる。
やがてジルベールがヴィートを追いかけるように進み始めるが、先程まで頼もしかった背中は急にしおらしくなり、彼が肩を落としてしまう姿がクリスティーナにはありありとわかった。
ディオンに会う前から起こった騒動に先を思いやられながらクリスティーナため息を吐いたのだった。
それを察したクリスティーナも二人からやや遅れる形で警戒心を抱くが、ジルベールだけが平常心を保っていた。
目を丸くしてあざとく首を傾げる少年を見ながら彼は呆れたように息を吐く。
「ヴィートさん……。出てます、殺気が」
「え!? あー、ごめん! ついついうっかり……」
ヴィートと呼ばれた少年はジルベールの指摘によって何かを察したのか両手を合わせて謝罪する。
「怖がらせるつもりなかったんだよぉ! ごめん! 怒んないで! ……ほら、ガイチクカイム? だから!」
「恐らく人畜無害ですね……」
「そーれーだ!」
「殺気は消えた……けど」
「……出会い頭で殺気飛ばしてくる方を信用しろというのは流石に難しいですよ」
卓越した戦術と戦場での経験が培った代物だろう。クリスティーナには感じることの出来なかった殺気をいち早く感じ取ったらしいリオとエリアスは未だ警戒心を解けず身構えたままヴィートを見ていた。
「私も初めは同じでしたから、お気持ちはよくわかります……。まさか今日に限ってヴィートさんが応対係だとは……。まだ信頼していただけていないのにも拘らず更に信用を落とすことになるとは思いませんでした」
「なんだよー! おれだって応対くらいできるんだからね!」
「暗号より先に殺気の消し方を身に着けて欲しいものでしたね……」
ジルベールは警戒を解けずにいる三人の様子に困り果て、目頭を押さえる。
暫し呻いて考え込んでいたものの、やがて彼は暢気に口を尖らせて不貞腐れた態度を取るヴィートを恨めし気に一瞥してから口を開いた。
「……仕方ありません。私が間に立ちますし、お二人はそのままで構いません……ディオン様も事情を説明すれば察してくれるでしょうから」
「あ、そうそう。おっさんに会うんだよね。案内するよ」
ヴィートは手招きをすると数段飛ばしで階段を下りていく。
それを確認してから、ジルベールは不安そうに振り返る。
恐らくは自身の信頼を失ったことで依頼を断られることを恐れているのだろう。
リオとエリアスは未だ気が抜けない様子であったが、クリスティーナは小さく息を吐いてから彼に頷いてやることにした。
「……いいわ、行きましょう。今更退くのも性に合わないし、何かあっても対応してくれるだけの戦力はあるもの」
「えぇ……絶対やばいですよあの子」
「……お嬢様がそう仰るのであれば」
「気苦労をお掛けして本当に申し訳ありません……」
護衛二人は乗り気ではないものの、主人の選択ならばと頷きを返し、ジルベールは泣きたいような気持ちを抑えて頭を下げる。
やがてジルベールがヴィートを追いかけるように進み始めるが、先程まで頼もしかった背中は急にしおらしくなり、彼が肩を落としてしまう姿がクリスティーナにはありありとわかった。
ディオンに会う前から起こった騒動に先を思いやられながらクリスティーナため息を吐いたのだった。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。
kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。
前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。
やばい!やばい!やばい!
確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。
だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。
前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね!
うんうん!
要らない!要らない!
さっさと婚約解消して2人を応援するよ!
だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。
※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。
転生王女は現代知識で無双する
紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。
突然異世界に転生してしまった。
定番になった異世界転生のお話。
仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。
見た目は子供、頭脳は大人。
現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。
魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。
伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。
読んでくれる皆さまに心から感謝です。
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。
あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。
貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。
…あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!
鏑木 うりこ
ファンタジー
幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。
勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた!
「家庭菜園だけかよーー!」
元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?
大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー
当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる