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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
148-2.争いを嫌う細剣使い
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五人目の追い剥ぎは辺りを見回す。
意識を失った三人、そして抵抗の手段を失った一人、更にはジルベールの後ろに控えるクリスティーナ達。
人数的にも戦力的にも圧倒的不利な状況で戦闘を続ければどうなるかなど、明らかなことであった。
金槌を握っていた相手は深く息を吸うと脱力する。
その手から武器が滑り落ち、地面へと転がった。
それを確認してから、ジルベール安堵の息を漏らしながら四人目の相手に謝罪を述べながら退いた。
「加減はしたはずです。他の方もすぐに目を覚まされるでしょう」
立ち上がったジルベールは細剣を一振りする。
瞬間、その刃は小さな光となって霧散した。
再び柄だけの姿となった武器を衣服の中へしまうと、彼はマッチに火を灯し、転がっていたランプに明かりを灯す。
そしてそれを拾い上げると三人へと振り返った。
「お待たせしました。進みましょう」
***
クリスティーナ達がジルベールの後に続いて追い剥ぎの横を通り抜ける際も、意識を保っていた者達は不意を衝く素振り一つ見せなかった。
「治安が悪化してきているとはいえ、頻繁にこういうことが起こるわけではないのですが……。今回は運が悪かったですね」
そう呟くジルベールの後に続いて足を進めつつも、クリスティーナは背後から隙を狙われる可能性があるのではと考え、ふと後ろを振り返る。
だがそれに対しすぐにジルベールから声が掛かった。
「ご心配なさらず。追ってくることはないでしょう」
「何故そう言い切れるの?」
「先程、貧困に苦しむ民の話はしましたよね。彼らが賊ではなくただの民だからです。武力を行使することに躊躇いのある一般人。そして狙った相手との力量に大きな差があるとなれば恐怖を抱くものでしょう」
「敢えて太刀打ちできない相手を深追いする必要もない、ということですか」
「はい。……それに、先も言いましたが彼らは決して利害関係のみで成り立っている関係ではない。情があるはずです。相手を巻き込んだ無茶はしないでしょう」
「そう……」
フードを被り直し、先を進むジルベール。
クリスティーナから向けられる不思議そうな視線に気付いたからなのか、彼が小さく笑う気配があった。
「私の考えは甘いとお思いですか」
「……まあ、正直」
「リオ」
「はは、良いんですよ。事実だと思います」
腑に落ちないらしいリオが真っ先に答えた否定的な返しをクリスティーナが窘める。
だがジルベールは彼の素直な反応に笑うだけだった。
「元は剣術で名の通る家の出なのですが、どうにも荒事が苦手でして。個々の武力を誇る家との折り合いが悪くなって逃げるようにオリオール家へ仕えるようになったのです。……ですから剣士としては失格でしょうね」
困った様に力なく笑った彼はすぐに思い至った様に言葉を付け加える。
はっきりとした物言い。迷いのなさを明らかとさせる声音。
「ですが、今回の件で必要となれば武力を行使する覚悟は既に済ませました。約束を違えることは決してしませんので、ご安心を」
例え家を出る程嫌悪を抱くものであったとしても必要とあらば向き合う覚悟が彼の言葉尻からは感じ取れる。
シャルロットを巻き込んだ魔導具の問題をジルベールがどれだけ大きな問題として捉えているのか、どれだけの想いで解決を望んでいるのか。その鱗片をクリスティーナは悟ったのであった。
意識を失った三人、そして抵抗の手段を失った一人、更にはジルベールの後ろに控えるクリスティーナ達。
人数的にも戦力的にも圧倒的不利な状況で戦闘を続ければどうなるかなど、明らかなことであった。
金槌を握っていた相手は深く息を吸うと脱力する。
その手から武器が滑り落ち、地面へと転がった。
それを確認してから、ジルベール安堵の息を漏らしながら四人目の相手に謝罪を述べながら退いた。
「加減はしたはずです。他の方もすぐに目を覚まされるでしょう」
立ち上がったジルベールは細剣を一振りする。
瞬間、その刃は小さな光となって霧散した。
再び柄だけの姿となった武器を衣服の中へしまうと、彼はマッチに火を灯し、転がっていたランプに明かりを灯す。
そしてそれを拾い上げると三人へと振り返った。
「お待たせしました。進みましょう」
***
クリスティーナ達がジルベールの後に続いて追い剥ぎの横を通り抜ける際も、意識を保っていた者達は不意を衝く素振り一つ見せなかった。
「治安が悪化してきているとはいえ、頻繁にこういうことが起こるわけではないのですが……。今回は運が悪かったですね」
そう呟くジルベールの後に続いて足を進めつつも、クリスティーナは背後から隙を狙われる可能性があるのではと考え、ふと後ろを振り返る。
だがそれに対しすぐにジルベールから声が掛かった。
「ご心配なさらず。追ってくることはないでしょう」
「何故そう言い切れるの?」
「先程、貧困に苦しむ民の話はしましたよね。彼らが賊ではなくただの民だからです。武力を行使することに躊躇いのある一般人。そして狙った相手との力量に大きな差があるとなれば恐怖を抱くものでしょう」
「敢えて太刀打ちできない相手を深追いする必要もない、ということですか」
「はい。……それに、先も言いましたが彼らは決して利害関係のみで成り立っている関係ではない。情があるはずです。相手を巻き込んだ無茶はしないでしょう」
「そう……」
フードを被り直し、先を進むジルベール。
クリスティーナから向けられる不思議そうな視線に気付いたからなのか、彼が小さく笑う気配があった。
「私の考えは甘いとお思いですか」
「……まあ、正直」
「リオ」
「はは、良いんですよ。事実だと思います」
腑に落ちないらしいリオが真っ先に答えた否定的な返しをクリスティーナが窘める。
だがジルベールは彼の素直な反応に笑うだけだった。
「元は剣術で名の通る家の出なのですが、どうにも荒事が苦手でして。個々の武力を誇る家との折り合いが悪くなって逃げるようにオリオール家へ仕えるようになったのです。……ですから剣士としては失格でしょうね」
困った様に力なく笑った彼はすぐに思い至った様に言葉を付け加える。
はっきりとした物言い。迷いのなさを明らかとさせる声音。
「ですが、今回の件で必要となれば武力を行使する覚悟は既に済ませました。約束を違えることは決してしませんので、ご安心を」
例え家を出る程嫌悪を抱くものであったとしても必要とあらば向き合う覚悟が彼の言葉尻からは感じ取れる。
シャルロットを巻き込んだ魔導具の問題をジルベールがどれだけ大きな問題として捉えているのか、どれだけの想いで解決を望んでいるのか。その鱗片をクリスティーナは悟ったのであった。
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