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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
148-1.争いを嫌う細剣使い
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晒された刃を見て相手が怯んだ隙にジルベールはランプを大きく振って灯りを消す。
そしてやや乱暴に足元へ転がすと暗闇に包まれた路地裏の地面を蹴り上げた。
奪われた視界に動揺する五人。
その内一番前に出ていた相手の鍬をジルベールはすかさず弾き飛ばす。
驚いた声が上がるが、それはすぐさまくぐもった呻き声へ変わることとなった。
ジルベールは相手の鳩尾に拳を埋め込むと、身を翻し、二人目の顎を地面と垂直に蹴り上げる。
二人が地面へ倒れ伏した時には既に彼は三人目へと手を伸ばしていた。
三人目は起こっていることが理解できないながらに闇雲にナイフを振るう。
それが偶然にもジルベールの目前へと迫ったが、彼は困った様に眉を下げたまま身を屈めて悠々と躱してしまう。
対応の速度で言えば常人よりやや早い程度の動き。だがその回避と攻撃の的確さに於いては熟練者であっても目を見張るものがあった。
丁寧且つ精錬された綺麗な型。それを守りながら彼は三人目のナイフをも細い刃で叩き上げた。
宙を舞うナイフには目も呉れず、ジルベールは三人目の背後へ回り込む。
相手に背を向けたまま、彼は剣の柄でその後頭部を的確に殴りつけた。
遅れてナイフが地面へ転がる音。そこへ更に畳みかけるように三人目の倒れる音が重なる。
四人目。暗闇に慣れてきた相手はジルベールの接近を恐れて包丁を真正面に向けるが、動かない刃に危険性は皆無だ。
ジルベールは自分の足を相手の足に引っ掛けて仰向けに転倒させる。そして四人目へ馬乗りになりながら、すかさず細剣を相手の顔を掠めるように突き立てた。
硬い地面と刃が衝突する音が響く。
四人目は迫る危機と相手との力量の差に戦意を喪失したらしく、握っていた包丁を自ら手放した。
だが、その背後で金槌を持った五人目がジルベール目掛けて自身の武器を振り上げた。
「……もう止しませんか」
しかしそれは振り下ろされ、相手の体へ衝突するよりも先に、後ろへ伸ばされたジルベールの手によって阻まれる。
彼は振り返ることなく、五人目の金槌を持った方の手首を的確に掴んでいた。
剣を突き立てたまま、ジルベールは五人目へ振り返り諭すように言葉を紡ぐ。
「これ以上の人数の意識を奪ってしまえば、私達が去った後に貴方方の身も安全ではなくなってしまう。ただでさえ今この街はならず者が多く蔓延る様になっているのです。深夜の路地裏で意識を失えば、危険が降り掛かる可能性も十二分にある」
抵抗しようとする五人目の腕は力んで震えるものの、ジルベールの手を振り解く程の者にはなり得ない。
そんな相手の悪足搔きを気に留めた様子もなく、ジルベールは説得を試みていた。
「二人で三人を運ぶことまでは何とかなるかもしれませんが、一人で四人を一度に運ぶことは困難です」
ジルベールの指摘に思うことがあったのか、相手の抵抗する力が弱まる。
そこへ尚も相手を諭す言葉が向けられた。
「……貴方方は賊の類ではないでしょう。皆様、少なからず築かれたご関係があるはず。そして互いを思う情もあるはずです。自分やお仲間の身を案ずるのならばここで退いてください」
そしてやや乱暴に足元へ転がすと暗闇に包まれた路地裏の地面を蹴り上げた。
奪われた視界に動揺する五人。
その内一番前に出ていた相手の鍬をジルベールはすかさず弾き飛ばす。
驚いた声が上がるが、それはすぐさまくぐもった呻き声へ変わることとなった。
ジルベールは相手の鳩尾に拳を埋め込むと、身を翻し、二人目の顎を地面と垂直に蹴り上げる。
二人が地面へ倒れ伏した時には既に彼は三人目へと手を伸ばしていた。
三人目は起こっていることが理解できないながらに闇雲にナイフを振るう。
それが偶然にもジルベールの目前へと迫ったが、彼は困った様に眉を下げたまま身を屈めて悠々と躱してしまう。
対応の速度で言えば常人よりやや早い程度の動き。だがその回避と攻撃の的確さに於いては熟練者であっても目を見張るものがあった。
丁寧且つ精錬された綺麗な型。それを守りながら彼は三人目のナイフをも細い刃で叩き上げた。
宙を舞うナイフには目も呉れず、ジルベールは三人目の背後へ回り込む。
相手に背を向けたまま、彼は剣の柄でその後頭部を的確に殴りつけた。
遅れてナイフが地面へ転がる音。そこへ更に畳みかけるように三人目の倒れる音が重なる。
四人目。暗闇に慣れてきた相手はジルベールの接近を恐れて包丁を真正面に向けるが、動かない刃に危険性は皆無だ。
ジルベールは自分の足を相手の足に引っ掛けて仰向けに転倒させる。そして四人目へ馬乗りになりながら、すかさず細剣を相手の顔を掠めるように突き立てた。
硬い地面と刃が衝突する音が響く。
四人目は迫る危機と相手との力量の差に戦意を喪失したらしく、握っていた包丁を自ら手放した。
だが、その背後で金槌を持った五人目がジルベール目掛けて自身の武器を振り上げた。
「……もう止しませんか」
しかしそれは振り下ろされ、相手の体へ衝突するよりも先に、後ろへ伸ばされたジルベールの手によって阻まれる。
彼は振り返ることなく、五人目の金槌を持った方の手首を的確に掴んでいた。
剣を突き立てたまま、ジルベールは五人目へ振り返り諭すように言葉を紡ぐ。
「これ以上の人数の意識を奪ってしまえば、私達が去った後に貴方方の身も安全ではなくなってしまう。ただでさえ今この街はならず者が多く蔓延る様になっているのです。深夜の路地裏で意識を失えば、危険が降り掛かる可能性も十二分にある」
抵抗しようとする五人目の腕は力んで震えるものの、ジルベールの手を振り解く程の者にはなり得ない。
そんな相手の悪足搔きを気に留めた様子もなく、ジルベールは説得を試みていた。
「二人で三人を運ぶことまでは何とかなるかもしれませんが、一人で四人を一度に運ぶことは困難です」
ジルベールの指摘に思うことがあったのか、相手の抵抗する力が弱まる。
そこへ尚も相手を諭す言葉が向けられた。
「……貴方方は賊の類ではないでしょう。皆様、少なからず築かれたご関係があるはず。そして互いを思う情もあるはずです。自分やお仲間の身を案ずるのならばここで退いてください」
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