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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

145-3.何度でも差し伸べられる手

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 どのような理由であれ、自分とは違う想いを抱いているのだとしても、恋い慕う相手が自分の為に駆けつけてくれたことはとても嬉しい。
 だが彼が抱えることになる問題を、彼のことを思うのならば偽りの言葉を貫くべきだとシャルロットは知っていた。

 だが、そう結論が至った時にはもう遅かった。

 溢れた涙が頬を伝い、心の奥底にしまっていた暗い感情が喉を通って零れ落ちる。
 嗚咽混じりに吐き出された本心は止まらなかった。

 オリヴィエはシャルロットの吐露に耳を傾け続ける。
 そして一通り彼女の想いを聞き届けたところで、オリヴィエはシャルロットの頬へと手を伸ばす。

「……わかった。それがお前の望みなんだな」

 濡れた目の下と溢れた雫を人差し指で掬い取りながら、彼は再び微笑んだ。

「必ず何とかしてやる。だから泣くな」

 不安を微塵も感じさせないような声音。
 だが威勢のいい言葉の後、彼は困った様に目を逸らすとやや言い淀んだ。

「……でも泣きたくなったらすぐに僕に言え。隠される方が癪だ」
「ふふっ……結局どっちなの」
「堪えるくらいなら泣いてしまえってことだ。お前が泣かないようにするのは僕の役目だ」

 矛盾したような言い分や妙に格好つけきれない部分に気が緩んでいく。
 溢れる涙が落ち着きを取り戻し、軽口を交えながら互いに笑い合う。

 だが安心する反面、渦巻く不安と罪悪が確かに存在していた。

 オリヴィエは嘘を吐かない。どこまでも実直で、自分が決めたことは貫き通す。
 だからこそ彼の言葉は信用できるし、彼ならなんとかしてくれるだろうという期待を抱いてしまう。

 だが、自身の選択は正しかったのだろうか。
 彼に深い業を背負わせてしまってはいないか。

 その特殊な境遇を思えば、彼が進もうとしている道が茨の道であることは明らかであった。

(……ごめんね)

 話せば彼は必ず助けると言うだろうとわかっていた。
 それでも全てを語ってしまったこと、それによって彼を巻き込んでしまったこと、これから彼を待ち受けるだろう困難。それを招いた自分の弱さにシャルロットは心の中で許しを乞うたのだった。
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