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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

145-1.何度でも差し伸べられる手

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 突如、体を壊したシャルロットはその後も容態が良くならず、やむを得ず魔法学院を休学することとなった。

 その事実を知った友人達からは定期的に体調を心配する旨の手紙が送られてきたが、その中に整った筆跡で書かれたやけに端的で愛嬌の欠片もないような手紙も紛れていた。
 最早メッセージカードと変わらない程度の文字数しかないものであったが、それでも快調に向かうようにと思いを綴ったそれも、シャルロットは大切に保管している。

 そして友人達への手紙の返事には必ず大袈裟に心配するようなものでもないと安心させる為の言葉を添えた。

(……嘘吐きだなぁ)

 筆を机に置いて、書き上がった手紙を眺めながらシャルロットは心の中でぼやく。
 重い体と時折霞む視界。食欲も以前よりなくなってしまった。

 体調に明らかな変化が出ているというのに医者は原因がわからないという。

 久しぶりに会った父は人が変わった様だった。
 以前の様な温厚さは鳴りを潜め、久しぶりの娘との再会を喜ぶこともせず家族と過ごす時間も取らなくなった。
 更に高価な骨董品を集め、それらに酔いしれ、稀にシャルロットと顔を合わせた際にはその良さを懸命に知らしめようとする。
 常に笑顔を浮かべているのに、目は泥の様に淀んでいてどこか不気味な父。

 怖かった。突然起きた体の変化も、親しかった相手の突然の変化も。
 しかしそれを誰かに打ち明けることは出来なかった。

 一日の殆どをシャルロットに付き添うジルベールは時折気を遣って声を掛けたが、それにも大丈夫だと偽りを返すことしかできなかった。
 もう駄目だと一度言葉にしてしまえば、胸の内にしまい続けた恐怖が溢れて止まらなくなってしまいそうだった。
 駄目かもしれないと一度でも口にしてしまえば、それが現実になってしまいそうだった。

 どうしようもなく怖くて仕方がなかったからこそ、それを言葉にすることすら恐れてしまった。

 書き上げた手紙をぼんやりと眺めている内、視界が滲み始めたことにシャルロットは気付く。
 いけないと強く目を瞑り、深く息を吐く。

 そして気持ちを落ち着けてから窓へと視線を向けた。

 館を静かに見下ろす月と輪郭を曖昧に歪ませた夜の庭。
 少しだけ夜風に当たれば気でも紛れるだろうかとシャルロットは窓へ手を掛ける。

 しかし鍵を開けたその瞬間、シャルロットが力を加えるよりも先にやや乱暴に窓が開けられた。
 突如吹き抜ける冷たい夜風。それに横髪を攫われたシャルロットは夜風の冷たさと差し込む月明かりに目を細めた。

「まだ起きていたのか」

 聞き覚えのある、けれどやけに懐かしさを覚える声。
 ここに居ないはずの『彼』の面影に、シャルロットは目を見開いた。

 月明かりを背に受けたままシャルロット見下ろすオリヴィエは相手の驚いた表情に満足したように口角を上げた。
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