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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

142-1.内通者

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 突如ジルベールの口から零された聞き覚えのある名。それにクリスティーナは眉根を寄せた。

「誤解なきよう先にお伝えさせていただきたいのですが、ディオン様はお三方と無理矢理接触を図ろうと試みている訳ではありません。あの方と繋がりのある私が皆さんとこうして顔を合わせることになったのも偶然に過ぎません」
「……それはどうかしら。私達がここへ来たのはそのディオンという男の元に属する者からの紹介だったわ」

 あの胡散臭い男の関係者となれば容易に信用すべきではない。
 そう判断したクリスティーナはジルベールの言葉に疑いを掛けるが、本人はそれに対し首を横に振った。

「オリヴィエ様のことを仰っているのですね。彼とは親しいわけではありませんから、これは私の憶測になってしまいますが……あの方はシャルロット様のことを大切に思ってくださっています。お三方をシャルロット様へご紹介したことに何か裏があったとは考え辛いかと」
「……お嬢様、この点に関してはジルベール様のお言葉を信じても良いのかもしれません」

 使用人の前で堂々とオリヴィエの不法侵入について触れるシャルロット。そこからこの館の使用人間でもオリヴィエの勝手な出入りは黙認されているものであるとクリスティーナは推測していた。
 そして現に、ジルベールはオリヴィエの名を出した。それは彼の存在を認知しているからに他ならない。

 であるならば、オリヴィエやジルベールが結託することも難しくはないのではと思っての疑りであったのだが、それはリオによって否定された。
 彼はクリスティーナの耳元で囁く。

「第一にオリヴィエ様は嘘が吐けない性格ですから、何か企みがあったのであれば何かしらの態度に出る事でしょう。第二に、彼と俺達はそれなりの接点があることから、敢えて第三者を使うなどという回りくどい手法を取るだけのメリットがありません」
「……本人が直接動いて説得なり工作なりすればよいという事ね」
「はい。……それに、彼は俺達をシャルロット様の元へ案内したものの、その後のことについては一切指示を出されませんでした。それどころか変に付き合い続ける必要はないと明言されていましたから……」

 シャルロットと接触する機会を設けたのは間違いなくオリヴィエであったが、確かに彼が何かを促す様な発言はなかった。
 今の様にジルベールを通じてディオンの名を聞かされるような展開を予測して動いていたと理由付けるにはあまりにも彼の能動的な行いが少なすぎると言えるだろう。
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