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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

140-2.虚言の理由

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 クリスティーナは返答に躊躇う。
 本人を目の前に貴方を陥れたのだと告げるのは聊か気が引けることだ。また、一使用人としても客人が嘘を吐いて館を練り歩く企てをしていたという事実は好ましくなくて当然のことである。
 だが、ここで事実を伏せれば恐らく彼はクリスティーナの先の問いに対しても同じ様に返すはずだ。
 こちらが偽りを述べる以上、相手に誠実な返答を求めることは出来なくなってしまう。

「……ええ。貴方の言う通りだわ」

 悩んだ末、クリスティーナはその場凌ぎの嘘を吐くことを諦めた。

「貴方が不快に思っても仕方のないことをしてしまったとは思うわ。……けれど、できれば誤解はしないで欲しいの。貴方やシャルロットに危害を加えるつもりで行動した訳ではないのよ」
「……では何故?」
「それは……」

 自身の正体とそれに直結する言葉を他人へ漏らすわけにはいかない。
 言葉を濁し、クリスティーナが返答に悩んでいる内に沈黙が訪れる。
 気まずさを伴った空気の中、彼女が何も言えずにいると、不意にジルベールが小さく息を漏らして苦笑した。

「……申し訳ありません。困らせたいわけではないのです。……そうですね、質問を変えましょう」

 ジルベールはやはりクリスティーナやリオを疑う素振りを見せない。
 しかし二人の真意を探りたいという意図は少なからずあるだろう。彼は真っ直ぐと二人を見据えたまま続けた。

「お二人はあの先にある物について知っていたのではありませんか」
「……っ」

 クリスティーナは思わず目を見張る。
 先程開かれかけた扉の先、そこにある物が何であるか、具体的に知っている訳ではない。だがあそこには何かがあるという確信の元動いていたクリスティーナにとって、ジルベールのその問いは核心を掠めるものであった。

 だがクリスティーナの動揺を誘う彼の言葉はそこで留まらない。

「明確にはわからずとも、あの先に危険性を帯びた何かがあるのではと感じたのではありませんか?」

 彼の言葉は裏を返せば館に危険な物があると仄めかすものだ。
 だが今のクリスティーナにとって驚くべきことはそこではなく、事情の一切を知らないはずであるジルベールが自分の行動の理由の殆どを言い当ててしまったことである。

 返されるのは沈黙。だがクリスティーナのその反応からジルベールは何かを見出したのかもしれない。

「……シャルロット様をお待たせして随分経ってしまいましたね。先に戻りましょう」

 彼は懐中時計を取り出して時間を確認すると二人へ笑い掛けた。

「続きはまた後程……よろしければご帰宅前にでも、お時間を頂ければ幸いです」
「……わかったわ」

 クリスティーナの短い返答に頷きが返される。
 三人は再びシャルロットの寝室へと向かって歩き出したのだった。
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