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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

140-1.虚言の理由

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 クリスティーナ達を先導し、速足で廊下を歩いていたジルベールはジョゼフとの距離が十分に離れ、その姿が見えなくなったところで緊張を解くようにため息を吐いた。

 それを視界に留めながら、クリスティーナは説明を急かす様に口を挟む。

「……嘘なのでしょう?」

 声に反応したジルベールの視線が自身へ向けられるのを感じながら、クリスティーナは言葉を付け加える。

「彼は愚鈍で浅慮だけれど、与えられた仕事を熟すことに於いては妥協しないもの。くだらない理由で職務を放棄するとは思えないわ」
「同感ですね。彼がジルベール様の仰るような失態を犯すとは考えにくいです」

 エリアスは考え足らずな言動を取る場面が見受けられることもあるが、護衛という仕事を軽んじることはない。
 ただでさえ魔族とさほど距離を置けていない状況下で気を許し、自身の体を壊すような事態を彼が招くとはクリスティーナもリオも考えていなかった。

 そもそもとして、自分達がシャルロットの部屋に訪れた際、菓子を出されてなどいなかったという最大の矛盾も存在する。
 それでもジルベールが館の主人であるジョゼフに嘘を吐いていることを悟りながら二人が話を合わせたのには、彼なりの考えがあってのことだと考えたからだ。

 クリスティーナはジルベールの顔色を窺いながら自身の憶測を語る。

「私達をすぐにでもあの場から遠ざけたかった。そんな思惑があったのではないの?」

 相手の出方を窺う二つの視線。
 それを受けたジルベールは暫し黙りこくった後、眉を下げて困った様に笑った。

「……全てお見通しなのですね。恐れ入りました」

 彼は周囲を見回し、自分達以外の人間が近くにいないことを確認する。

「恐らくクリス様とリオ様は私の先の言動の意図が気になっていらっしゃっていることでしょう。……しかしそれにお答えする前に私の方からも質問させていただきたいのです」

 ジルベールは真剣な面持ちで二人を交互に見やる。
 そして一つ間を置いてから彼はゆっくりと口を開いた。

「お二人は聡明な方であると、私は理解しております。それに加え、この建物は広さこそあれど、シャルロット様の寝室から手洗いまでの道のりは複雑な物でもありません。故に思うのです。お二人には私共に偽りを述べてまで館を歩き回りたい理由があったのではないかと。……違いますか?」

 ジルベールはほぼ確信をしている様に迷いなく発言する。
 だがその言葉は、嘘を吐かれたことや館を勝手に歩き回ったことに対して怒りを覚えているようには見えず、ただ淡々と事実を確認しているかのようであった。
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