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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

139-2.滑稽な寸劇

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「お前達は何をしているんだ……! 客人の体には常に気を遣って然るべきだろう!」
「申し訳ありません。出した物全てを手放しに喜んでくださる姿を見て喜んだシェフが、お客様に喜んでいただきたい一心で腕を奮ったようで……。最近はお客様も殆どいらっしゃらなかったこともあり、張り切ってしまったようです」
「まさかここに仕える者が揃いも揃って無能だったとは。失望したぞ」
「返す言葉もございません……」

 怒りに我を忘れて興奮しているジョゼフと一方的に責め立てられて頭を下げ続けているジルベールの会話を前に暫しクリスティーナ達は会話へ介入する余地を失う。
 自身の胸中を訴えるようにクリスティーナがリオを見やれば、彼は主人ににしかわからない程度に小さく肩を竦めて見せた。

 クリスティーナはこめかみを押さえながら深く息を吐く。

「……連れが迷惑を掛けたわ。そういう事であれば戻りましょう」
「思慮に欠けた言動が多いとは言え、まさか彼がここまでだったとは思いませんでしたね」
「同感よ……」
「ありがとうございます」

 クリスティーナの判断にジルベールは礼を告げる。
 彼は真面目な顔付きのままクリスティーナとリオへ向き直る。

「恐らくは食べ過ぎによる胃痛だと思われるのですが……。持病などの可能性も考えられる為、万が一のことを考慮した上でお二人を探しておりました」
「私も彼の健康状態について深く知っている訳ではないから、直接様子を見たいわ」

 深呼吸を一つしてからクリスティーナはジルベールの後ろからジョゼフを見やり、深く頭を下げる。

「こちらの連れがお騒がせしてしまい、申し訳ありません」
「……いや。取り乱してしまい、すまなかったね。こちらの使用人にも落ち度はある。申し訳ない限りだ」
「いいえ」
「……話を聞く限り、大事に至る心配はほぼ皆無でしょう。ジョゼフ様のお手を煩わせることでもないかと思われます。お忙しい身でしょうから、どうか後のことは当事者である私共にお任せください」
「そういう事ならば……お言葉に甘えよう。もし何か想定外の事が起きた際にはすぐに読んでくれ。使用人の失態は主人である私の失態とも言えるからね」

 連れの失態を恥じ、これ以上くだらないことに高貴な身分の者を巻き込みたくないと言う意図をクリスティーナは伝える。
 それに免じ、客人の顔を立ててくれたのか、はたまた別の理由があったのかはわからないが、ジョゼフはあっさりと頷きを返した。

「寛大なご配慮、ありがとうございます。それでは失礼致します」
「ああ。君達とゆっくり話す機会がまた別にあることを願っているよ」
「ええ。その時は是非」

 怒りを鎮め、再び冷たい瞳を携えたままの穏やかな微笑を見せるジョゼフ。
 それに出来る限り自然な微笑みを返しながらクリスティーナは踵を返した。

 リオはその後ろに続き、ジルベールは慌ててクリスティーナの前へ回り込むとシャルロットの部屋へと先導したのだった。
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