上 下
408 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

137-1.確信へ変わる予感

しおりを挟む
 クリスティーナとリオは並んで館の廊下を歩く。使用人の姿が殆ど見られない静かな空間を横切りながらクリスティーナはリオを横目で見やった。

「こちらは進展がなかったわ。ある程度予想はしていたことだけれど」
「ということはやはりシャルロット様に魔法を使う以外の別の方向から解決策を考えなければなりませんね」

 クリスティーナは小さく頷く。
 そして一つ間を置いてからリオへ問い掛けた。

「貴方の方はどうなの?」
「言われた通り、可能な範囲でシャルロット様の周辺のお話は伺って来ましたよ」

 クリスティーナはシャルロットの元へ訪れる前に、折を見て館の事情を探るようリオへ指示を出していた。
 シャルロットが体を崩すようになった時期や原因を把握することが解決策に繋がるのではないかと考えたのだ。手始めに彼女の周辺の事情を探ることが出来れば自分の求める情報が得られる。そう思ったからこそクリスティーナはリオへ指示を出した。

「まず、ジルベール様は予想以上に心身共に消耗していらっしゃると考えられます。彼の振る舞いをとシャルロット様へ向けられる忠誠を見るに、本来は感情的になることも、主人に関する情報を容易に漏らすことも考えにくい性格であるはずですから」
「その言い方だと今回は違ったようね」
「ええ。消耗から冷静さが欠けてしまっているように思えます。……お陰で思いの外様々な話を伺えました」

 使用人の少なさと悪化する主人の容態。それだけの材料が揃えば精神的に不安定になってしまうことも理解できる。
 そしてそれは今回のクリスティーナ達にとっては都合の良い話であった。
 リオは得た情報を主人へ共有し始める。

「シャルロット様についてですが、お体を崩されたのは凡そ一年前。学院の長期休暇でご帰宅になっている時に突然倒れられ、以降は体調が芳しくない状況が続いているそうです」
「突然……そう」

 急性の病気は短時間で命に関わるものは多くとも、長期間を経て体を蝕んでいく類のものは稀であるとクリスティーナは認識している。勿論医学的な知識は持ち合わせていないが、少なくとも一般人が思い当たる病気の範疇ではそうだ。
 本当に何の前触れもなく倒れたのだとすれば、それはクリスティーナの病気に対する認識の範疇ではやや違和感を覚えるものである。

「また、医師もシャルロット様が患っている病気に心当たりはないとのことでした」
「医師にもわからない病気……? 黒い靄の発生と絡めると尚更ただの病気ではないような気がするわ」
「同感ですね。お嬢様にしか視認できない靄が何物かはっきりとしていない以上、断言はできませんが……それでもただの病気として片付けるには腑に落ちない点が見受けられます」
「ええ。だからまずは……」

 確信染みた主人の発言に同意する従者の言葉。クリスティーナはそれに小さく頷きながら、ふとその足を止めた。
 そしてシャルロットやジルベールに教えられた手洗いとは別の方角を見やった彼女は小さく囁く。

「行くわよ」
「はい」

 クリスティーナが見やったのは廊下の先へ続く黒い靄だ。それがどこへ続いているものであるのかを確認すべく、彼女は手洗いを口実にシャルロットの部屋から離れたのだった。
 速足で靄を追うクリスティーナの言葉に頷きを返しながらリオはその後を追う。

 二人はシャルロットの部屋とは逆の方角へと足を進めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

ゲーセンダンジョン繁盛記 ~魔王に異世界へ誘われ王国に横取りされ、 そこで捨てられた俺は地下帝国を建設する~

アンミン
ファンタジー
主人公・仁務博人は窮地に立たされていた。 脱サラで、ホテルとゲームセンターを一つにした ビジネスを開始。 しかし開業した途端、コ〇ナが直撃。 「ああ、コ〇ナの無い世界に行きてぇ……」 「ではこちらへおいでくださいっ♪」 かくして彼は、異世界で――― ホテル業とゲームセンターを兼ねたダンジョンを 経営する事になった。

衰弱勇者と災禍の剣

高柳神羅
ファンタジー
それは、異界に住む魔族との争いが終わった後の時代。 地上の国々が分裂し、領土拡大のために戦争を繰り返すようになった頃の時代。 かつて魔族と戦い、世界を救った英雄であるレオン・ティルカートは、現在は勇者の肩書きを捨てて辺境の街で新米冒険者を育成する指導教官として冒険者ギルドで働いていた。 そんな中、彼の元に近くの森に落下した彗星の調査の依頼が舞い込む。 調査のために現地に赴いた彼は、そこで一人の少女を発見する。 記憶を失った少女に残ったたったひとつの記憶「水晶が煌めく場所」を求める少女に、その場所へ向かう力を与えるため、レオンは彼女を一人前の冒険者として育てる決意をするのだった。 これは、魔族の呪いを背負って徐々に力を失い死にゆく元勇者が、破壊兵器である記憶を失った少女を冒険者に育て上げる日々の様子を描いた「旅立ちの前」の物語である。

1枚の金貨から変わる俺の異世界生活。26個の神の奇跡は俺をチート野郎にしてくれるはず‼

ベルピー
ファンタジー
この世界は5歳で全ての住民が神より神の祝福を得られる。そんな中、カインが授かった祝福は『アルファベット』という見た事も聞いた事もない祝福だった。 祝福を授かった時に現れる光は前代未聞の虹色⁉周りから多いに期待されるが、期待とは裏腹に、どんな祝福かもわからないまま、5年間を何事もなく過ごした。 10歳で冒険者になった時には、『無能の祝福』と呼ばれるようになった。 『無能の祝福』、『最低な能力値』、『最低な成長率』・・・ そんな中、カインは腐る事なく日々冒険者としてできる事を毎日こなしていた。 『おつかいクエスト』、『街の清掃』、『薬草採取』、『荷物持ち』、カインのできる内容は日銭を稼ぐだけで精一杯だったが、そんな時に1枚の金貨を手に入れたカインはそこから人生が変わった。 教会で1枚の金貨を寄付した事が始まりだった。前世の記憶を取り戻したカインは、神の奇跡を手に入れる為にお金を稼ぐ。お金を稼ぐ。お金を稼ぐ。 『戦闘民族君』、『未来の猫ロボット君』、『美少女戦士君』、『天空の城ラ君』、『風の谷君』などなど、様々な神の奇跡を手に入れる為、カインの冒険が始まった。

最弱ユニークギフト所持者の僕が最強のダンジョン探索者になるまでのお話

亘善
ファンタジー
【点滴穿石】という四字熟語ユニークギフト持ちの龍泉麟瞳は、Aランクダンジョンの攻略を失敗した後にパーティを追放されてしまう。地元の岡山に戻った麟瞳は新たに【幸運】のスキルを得て、家族や周りの人達に支えられながら少しずつ成長していく。夢はSランク探索者になること。これは、夢を叶えるために日々努力を続ける龍泉麟瞳のお話である。

転生したら森の主人になりました

上野佐栁
ファンタジー
ある日突然牛に引かれた少女の話である。牛に引かれた先は、森の主人。少女は、最初自分は、ラフォーレではないと主張するが、聞いてもらえず、執事のグラスと共に、この世界のことを少しづつ知り、この世界の森全体を救う為、全ての神に、力を貸してもらう話である。

処理中です...