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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

134-2.私だけの王子様

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 シャルロットの瞳がクリスティーナを捉える。
 それは諦めと焦りに大きく揺らぎながらも、僅かな期待を滲ませていた。

「もしかしたら、なんていう期待が拭いきれない。だから私は待ち続けちゃうんだ」

 どこか切なさを感じさせる様な微笑みでシャルロットが呟く。

「難しい事情なんて関係ないって全部蹴り飛ばして台無しにしながら、迎えに来てくれる。そんな滅茶苦茶で破天荒な――私だけの『王子様』を」

 自分一人ではろくに動くことすらできない体を抱え、貴族としてあるべき在り方と自分の望みという矛盾を抱え、上手く身動きが取れず悶える少女。
 彼女は物分かり良く現実を受け入れる反面でその現状から抜け出すことを諦めきれない。

 もし自分にハッピーエンドがあるのならばと自身の幸せの形を語って見せた彼女の言葉にクリスティーナはすぐに声を返してやることは出来なかった。

 貴族として、令嬢として在るべき姿というのはクリスティーナ自身が良く知っている。
 だが弱っていく体を抱えた少女が貴族のしがらみに囚われ続けた先のことを、義務を負った先で万一にも早くに命を落としてしまった時のことを考えてしまえば、彼女の淡い願いが誤った思想であると糾弾することも出来なかった。

 シャルロットの焦燥と諦念、憂いを滲ませた表情と言動は、事実はどうあれ彼女自身は己の後先が長くはないものだと仮定しているものと言える。

(……ままならないわ)

 己の望み全てを押し殺し、強いられた責務を全うした先、残されるものが望みから転じた心残りだけだったとしたら。
 それはどれだけ虚しい人生だろう。

 それを考えればシャルロットが密かに抱く望みや考え方にもクリスティーナは頷くことが出来た。

 クリスティーナは静かに目を伏せる。
 彼女の脳裏を過るのはシャルロットの想い人として示唆された人物だ。

 彼は彼女についてどれだけ把握しているのだろう。
 それについてどう考えているのだろう。
 彼女のことをどう思っているのだろう。

 そんな疑問が次々とクリスティーナの頭を埋めていく。

(……どこかでもう一度話す機会があればいいのだけれど)

 口下手で素直になれないクリスティーナ相手にも笑って話をしてくれたシャルロット。
 今まで嫌われ者として生きてきたクリスティーナに対して敵意や嫌悪を向けることなく、親しみを込めて接してくれた数少ない相手だ。

 出会って間もない相手ではあるが、クリスティーナにとってシャルロットは赤の他人として簡単に片付けることが出来ない存在となっていた。
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