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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
133-2.意味を決めること
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声に促されるように視線を戻したクリスティーナへ、シャルロットが更に言葉を掛ける。
「よかったら、もう少しだけ話をしない?」
「良いけれど……。私に聞き手の素質はないのだけれど」
「それは知ってる!」
聞き上手ではないと素直に打ち明けるも、それはシャルロットに一蹴されてしまう。
己から欠点を打ち明けるのと他者から指摘されるのとでは感じ方も違うものだ。あっさりと自身の欠点を肯定された上にくすくすと笑うシャルロットの態度にやや不服を感じ、クリスティーナは顔を背けた。
「あ、拗ねた」
「……そんな子供みたいな真似しないわ」
「嘘だぁ」
下手に否定したことが更に笑いを誘ったらしい。
シャルロットは目尻に涙を浮かべながら笑い続けた。
「それでもクリスに聞いて欲しいんだ」
「……そう。構わないわ」
クリスティーナが小さく頷きを返せば、ありがとうと礼を述べられる。
そしてシャルロットは照れ臭そうにはにかんでから、窓の外を見やる。
「昨日の続きなんだけど……。クリスは好きな人っている?」
「それが恋慕という意味合いで、という事であれば恐らくいないわ」
「曖昧だなぁ」
少々迷った後に紡いだ言葉に、シャルロットは苦笑する。
クリスティーナは知人を何名か思い浮かべながら静かに目を閉じた。
「今まで意識してきたことがないの。好意的に見れる相手がいないわけではないけれど、それがどんな要因から来るものかまで深く考えたことがないから」
クリスティーナは他者へ恋愛的な感情を抱いた経験はない。
それは人から嫌悪されやすかったことから恋愛に絡んだ話題と縁遠かったこともあるし、何より自身が下手に情に流されることを避けてきたこともある。
公爵令嬢という立場であれば将来の嫁ぎ先は血筋で決まるものだ。政略結婚が当たり前の人生で、誰かに恋心を抱く等ということは自身の首を絞めることにしか繋がらない。
故にクリスティーナは好意的に見ることのできる数少ない者達を恋愛の対象として考えることはしてこなかった。
もしかしたら自身が抱いた『好意』を掘り下げた先、恋愛へと発展し得た者はいたのかもしれない。だが深く考えることをしてこなかったクリスティーナは結局そうはならずにここまで生きてきた。
だからこそ、相手を恋い慕う気持ちが具体的にどのような感情であるのかがよくわからず、曖昧な返答しかできないでいた。
「若いなぁ」
「貴女とそう変わらないはずよ」
「歳の話じゃなくって……いや、いいや」
自信が過度に幼く見られている様に感じたクリスティーナは不満げに口を挟む。
そこへシャルロットが弁明しようとするが、その言葉は途中で途切れてしまった。
代わりに彼女は小さく笑うと呟いた。
「クリスにもいつか分かる日が来るよ」
「……来ない方がいいのではないかしら。特に、貴女の様な身分であれば尚更でしょう」
「うーん、ロマンってものがない……!」
貴族であれば誰だって恋愛が一筋縄ではいかないことはわかっているはずだ。
それはシャルロットも例外ではない。
そう指摘すると、彼女は苦く笑った。どうやら痛い所を衝いてしまったらしい。
だが困った様に眉を下げるも、シャルロットの目は誰かを強く思う様にどこか遠くを見ていた。
その横顔を見ながら、クリスティーナは静かに問いかける。
「……貴女はいるのよね。想い人が」
聞く前から答えを悟った問い。
シャルロットは照れ臭そうに頬を緩めると短く呟いたのだった。
「うん」
「よかったら、もう少しだけ話をしない?」
「良いけれど……。私に聞き手の素質はないのだけれど」
「それは知ってる!」
聞き上手ではないと素直に打ち明けるも、それはシャルロットに一蹴されてしまう。
己から欠点を打ち明けるのと他者から指摘されるのとでは感じ方も違うものだ。あっさりと自身の欠点を肯定された上にくすくすと笑うシャルロットの態度にやや不服を感じ、クリスティーナは顔を背けた。
「あ、拗ねた」
「……そんな子供みたいな真似しないわ」
「嘘だぁ」
下手に否定したことが更に笑いを誘ったらしい。
シャルロットは目尻に涙を浮かべながら笑い続けた。
「それでもクリスに聞いて欲しいんだ」
「……そう。構わないわ」
クリスティーナが小さく頷きを返せば、ありがとうと礼を述べられる。
そしてシャルロットは照れ臭そうにはにかんでから、窓の外を見やる。
「昨日の続きなんだけど……。クリスは好きな人っている?」
「それが恋慕という意味合いで、という事であれば恐らくいないわ」
「曖昧だなぁ」
少々迷った後に紡いだ言葉に、シャルロットは苦笑する。
クリスティーナは知人を何名か思い浮かべながら静かに目を閉じた。
「今まで意識してきたことがないの。好意的に見れる相手がいないわけではないけれど、それがどんな要因から来るものかまで深く考えたことがないから」
クリスティーナは他者へ恋愛的な感情を抱いた経験はない。
それは人から嫌悪されやすかったことから恋愛に絡んだ話題と縁遠かったこともあるし、何より自身が下手に情に流されることを避けてきたこともある。
公爵令嬢という立場であれば将来の嫁ぎ先は血筋で決まるものだ。政略結婚が当たり前の人生で、誰かに恋心を抱く等ということは自身の首を絞めることにしか繋がらない。
故にクリスティーナは好意的に見ることのできる数少ない者達を恋愛の対象として考えることはしてこなかった。
もしかしたら自身が抱いた『好意』を掘り下げた先、恋愛へと発展し得た者はいたのかもしれない。だが深く考えることをしてこなかったクリスティーナは結局そうはならずにここまで生きてきた。
だからこそ、相手を恋い慕う気持ちが具体的にどのような感情であるのかがよくわからず、曖昧な返答しかできないでいた。
「若いなぁ」
「貴女とそう変わらないはずよ」
「歳の話じゃなくって……いや、いいや」
自信が過度に幼く見られている様に感じたクリスティーナは不満げに口を挟む。
そこへシャルロットが弁明しようとするが、その言葉は途中で途切れてしまった。
代わりに彼女は小さく笑うと呟いた。
「クリスにもいつか分かる日が来るよ」
「……来ない方がいいのではないかしら。特に、貴女の様な身分であれば尚更でしょう」
「うーん、ロマンってものがない……!」
貴族であれば誰だって恋愛が一筋縄ではいかないことはわかっているはずだ。
それはシャルロットも例外ではない。
そう指摘すると、彼女は苦く笑った。どうやら痛い所を衝いてしまったらしい。
だが困った様に眉を下げるも、シャルロットの目は誰かを強く思う様にどこか遠くを見ていた。
その横顔を見ながら、クリスティーナは静かに問いかける。
「……貴女はいるのよね。想い人が」
聞く前から答えを悟った問い。
シャルロットは照れ臭そうに頬を緩めると短く呟いたのだった。
「うん」
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