395 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
130-2.赴くままに
しおりを挟む
魔族との接触の可能性を危惧したエリアスの発言。それに対しリオは首を横に振る。
「いえ、つい先日オークションで見た懐中時計もですね」
「あ、そっか」
「魔族が潜伏し、何か企てた痕跡が懐中時計に残っていたと考えられなくもないですが……。実際にお会いした魔族の性格を鑑みるに、お嬢様を見つければすぐに始末しに掛かるようにも思えます」
「ってことは魔族が近くにいなくても何かしらの条件に当てはまった危険が可視化されてるって感じか……?」
「俺はその可能性の方が高いと踏んでいますね」
リオとエリアスの議論に耳を傾けながらも、クリスティーナは顔を顰める。
『闇』の正体が何であれ、それ警戒すべき現象であることはほぼ確定事項である。
それは即ち、現在のシャルロットが危険に晒される可能性を示しているのだ。
「不可解な点は他にもあるわ。以前は完全に祓うことのできた『闇』を今回は消しきれなかったことよ」
「先の戦闘時との違いは何かも気掛かりですね。シャルロット様が纏うものがお嬢様の力で解決できるものであればよいのですが、そうでなかった場合はこちらも手詰まりになってしまいます。その場合、シャルロット様をお助けするのは骨が折れるかもしれませんね」
「ええ。……え?」
物思いに耽っていたクリスティーナはリオの補足に一度は頷いたものの、すぐに彼へと視線を移して聞き返す。
クリスティーナが二人に伝えたのは自分が実際に目にした事実と『闇』に関する不可解な点のみだ。今後の自身の意向については一切発言をしていない。
にも拘らずシャルロットを救う手掛かりを探すことを前提にリオは話を進めていたのだ。
そんなクリスティーナの驚きも悟っているのだろう。リオは肩を竦めてあきれたように苦笑した。
「力になって差し上げたいのでしょう? いちいち言われずとも流石にわかりますよ。貴女はそういう方じゃないですか」
「リオ……」
「実際問題、俺達が介入することで良い方向に転ぶ保証はありません。けど試すことは悪いことじゃない。そうでしょう?」
クリスティーナの望みを汲み、それを促す優しい言葉。
それに何度か瞬きを返してから、クリスティーナは小さく微笑んだ。
「……ええ。そういえば、先に好きに動けば良いと言ったのは貴方達だったわね」
クリスティーナは普段の調子を取り戻したように不敵さを滲ませ、笑みを深める。
「今回も好きに動かさせて貰うことにするわ」
護衛二人の短い返事が彼女のその言葉に答えたのだった。
***
夜も更けた頃合い。夜通しジョッキを煽る酒飲みたちの声が遠くから聞こえる路地裏をオリヴィエは速足で進んで行く。
その顔に浮かぶのは焦りと苛立ちの混ざった、余裕のなさ。
そんな彼の進行方向。物陰に潜んでいた人影が複数、彼の移動を妨げるように立ち塞がった。
黒いローブに身を包み、顔を隠した面々。
「――オリヴィエ・ヴィレットだな」
そのうちの一人が口を開いた。
だがオリヴィエはそれに答えることなく、眉間に皺を刻んだ。
そして彼は腹立たし気に深く息を吐くと乱暴に前髪を掻き上げた。
「生憎、今は虫の居所が悪い。僕の前からとっとと失せろ」
黒ローブの集団が呪文を唱えようと口を開いた瞬間、彼は地面を蹴る。
宵闇に包まれた街の中、人知れず抗争が繰り広げられることとなった。
静けさを取り戻した路地裏に小さな舌打ちが響く。
地面に這いつくばったまま動かない黒ローブの人物らの真ん中でオリヴィエは自身の眼鏡を押し上げた。
その奥に光る黄緑の瞳は意識を失った襲撃者らを冷ややかに見下ろしていた。
「いえ、つい先日オークションで見た懐中時計もですね」
「あ、そっか」
「魔族が潜伏し、何か企てた痕跡が懐中時計に残っていたと考えられなくもないですが……。実際にお会いした魔族の性格を鑑みるに、お嬢様を見つければすぐに始末しに掛かるようにも思えます」
「ってことは魔族が近くにいなくても何かしらの条件に当てはまった危険が可視化されてるって感じか……?」
「俺はその可能性の方が高いと踏んでいますね」
リオとエリアスの議論に耳を傾けながらも、クリスティーナは顔を顰める。
『闇』の正体が何であれ、それ警戒すべき現象であることはほぼ確定事項である。
それは即ち、現在のシャルロットが危険に晒される可能性を示しているのだ。
「不可解な点は他にもあるわ。以前は完全に祓うことのできた『闇』を今回は消しきれなかったことよ」
「先の戦闘時との違いは何かも気掛かりですね。シャルロット様が纏うものがお嬢様の力で解決できるものであればよいのですが、そうでなかった場合はこちらも手詰まりになってしまいます。その場合、シャルロット様をお助けするのは骨が折れるかもしれませんね」
「ええ。……え?」
物思いに耽っていたクリスティーナはリオの補足に一度は頷いたものの、すぐに彼へと視線を移して聞き返す。
クリスティーナが二人に伝えたのは自分が実際に目にした事実と『闇』に関する不可解な点のみだ。今後の自身の意向については一切発言をしていない。
にも拘らずシャルロットを救う手掛かりを探すことを前提にリオは話を進めていたのだ。
そんなクリスティーナの驚きも悟っているのだろう。リオは肩を竦めてあきれたように苦笑した。
「力になって差し上げたいのでしょう? いちいち言われずとも流石にわかりますよ。貴女はそういう方じゃないですか」
「リオ……」
「実際問題、俺達が介入することで良い方向に転ぶ保証はありません。けど試すことは悪いことじゃない。そうでしょう?」
クリスティーナの望みを汲み、それを促す優しい言葉。
それに何度か瞬きを返してから、クリスティーナは小さく微笑んだ。
「……ええ。そういえば、先に好きに動けば良いと言ったのは貴方達だったわね」
クリスティーナは普段の調子を取り戻したように不敵さを滲ませ、笑みを深める。
「今回も好きに動かさせて貰うことにするわ」
護衛二人の短い返事が彼女のその言葉に答えたのだった。
***
夜も更けた頃合い。夜通しジョッキを煽る酒飲みたちの声が遠くから聞こえる路地裏をオリヴィエは速足で進んで行く。
その顔に浮かぶのは焦りと苛立ちの混ざった、余裕のなさ。
そんな彼の進行方向。物陰に潜んでいた人影が複数、彼の移動を妨げるように立ち塞がった。
黒いローブに身を包み、顔を隠した面々。
「――オリヴィエ・ヴィレットだな」
そのうちの一人が口を開いた。
だがオリヴィエはそれに答えることなく、眉間に皺を刻んだ。
そして彼は腹立たし気に深く息を吐くと乱暴に前髪を掻き上げた。
「生憎、今は虫の居所が悪い。僕の前からとっとと失せろ」
黒ローブの集団が呪文を唱えようと口を開いた瞬間、彼は地面を蹴る。
宵闇に包まれた街の中、人知れず抗争が繰り広げられることとなった。
静けさを取り戻した路地裏に小さな舌打ちが響く。
地面に這いつくばったまま動かない黒ローブの人物らの真ん中でオリヴィエは自身の眼鏡を押し上げた。
その奥に光る黄緑の瞳は意識を失った襲撃者らを冷ややかに見下ろしていた。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!
鏑木 うりこ
ファンタジー
幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。
勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた!
「家庭菜園だけかよーー!」
元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?
大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー
生まれ変わり大魔法使いの自由気まま生活?いえ、生きる為には、働かなくてはいけません。
光子
ファンタジー
昔むかしーーそう遠くない50年程前まで、この世界は魔王に襲われ、人類は滅亡の一手を辿っていた。
だが、そんな世界を救ったのが、大魔法使い《サクラ》だった。
彼女は、命をかけて魔王を封印し、世界を救った。
ーーーそれから50年後。
「……あ、思い出した」
すっかり平和になった世界。
その世界で、貧乏家庭で育った5人兄弟姉妹の真ん中《ヒナキ》は、財政難な家族を救う為、貴族様達金持ちが多く通う超一流学校に、就職に有利な魔法使いになる為に入学を決意!
女子生徒達の過度な嫌がらせや、王子様の意地悪で生意気な態度をスルーしつつ懸命に魔法の勉学に励んでいたら、ある日突然、前世の記憶が蘇った。
そう。私の前世は、大魔法使いサクラ。
もし生まれ変わったらなら、私が取り戻した平和を堪能するために、自由気ままな生活をしよう!そう決めていたのに、現実は、生きる為には、お金が必要。そう、働かなきゃならない!
それならせめて、学校生活を楽しみつつ、卒業したらホワイトな就職先を見付けようと決意を新たに、いつか自由気ままな生活を送れるようになるために、頑張る!
不定期更新していきます。
よろしくお願いします。
転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~
明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚
水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ!
そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!!
最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。
だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。
チートの成長率ってよく分からないです。
初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!!
あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。
あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。
悪役令嬢ですが最強ですよ??
鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。
で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw
ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。
だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw
主人公最強系の話です。
苦手な方はバックで!
転生王女は現代知識で無双する
紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。
突然異世界に転生してしまった。
定番になった異世界転生のお話。
仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。
見た目は子供、頭脳は大人。
現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。
魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。
伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。
読んでくれる皆さまに心から感謝です。
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる