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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

129-3.消えない闇

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 クリスティーナは自身を落ち着かせるように深く息を吸い込むと、シャルロットに触れている手の先に集中をする。

(……躊躇う事じゃないわ。使いたいと思った時に使わなければ、この力に翻弄されて終わるだけよ)

 強大な力の運命に振り回されることが避けられないのであれば精々その渦中でくらい、自分の思う道を貫かなければ。
 自分以外の要因によって不自由な思いをすることはクリスティーナにとって本意ではなかった。

 故にクリスティーナは魔法の行使を決意する。
 闇が掻き消されることを念じて、魔力の流れを感じ取る。
 やがてクリスティーナの手は温かな光に包まれて、シャルロットに絡まり付いていた靄を掻き消していった。

 だが次の瞬間。クリスティーナが覚えたのは僅かな違和感だ。
 確かにシャルロットを包む闇は消えたというのに、クリスティーナ自身に残るのはあまりにもない手応えのみ。
 今まで氷属性に準ずることはないであろう魔法を何度か使ってきたが、その際感じたのは倦怠感や魔力の消費したはっきりとした感覚だった。

 そこから考え得るのは、今回の魔法の使用は魔力消費を殆ど必要としなかったということ。
 それが意味することまでは分からないが、この手応えのなさは何故だかクリスティーナを不安にさせた。

「シャルロット様!」

 そこへ、使用人を引き連れたジルベールが戻って来た。後方には手を貸していたリオの姿もある。
 ジルベールと使用人達はすぐさまシャルロットを寝室へと運ぶ支度を始め、クリスティーナとエリアスは自ずとシャルロットから引き離されることとなる。

 やれることもなく、シャルロットが運ばれて行く姿をクリスティーナ達は見送ることしかできない。
 だが遠ざかっていくシャルロットの姿を見ていたクリスティーナは突如として鋭く息を吸った。

 従者に抱きかかえられて建物へ向かうシャルロット。
 彼女の体には先程祓ったばかりの闇が再び纏わりついていた。
 嫌な予感は大きく膨らみ続け、クリスティーナはシャルロットの姿が見えなくなるまで、呆然とただその姿を見送ることしかできなかった。

 一方で合流を果たしたリオは途中まではシャルロットを見送っていたものの、その視線を館の敷地の隅へと移動させる。
 遠く離れた木の陰に身を潜めていたらしい一人の姿。それはやがて軽々と塀を飛び越えて姿を消す。

 リオはその姿を静かに見送りながら赤い瞳を細めたのだった。
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