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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
124-2.警戒の対象
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「お嬢様も気付いてはいらっしゃると思いますが、オリヴィエ様が属している組織は現状謎に包まれています。俺達が把握していることは盗難や危険物の取り扱いを率先している方々の集まりであるという事のみです」
「まあ、本人の意思に関係なく周りへ危険を振りまいてしまうケースなんてのはいくらでもあるしな。怪しいとこに関わってるってなら尚更だろ」
リオと、彼の見解に同意を示すエリアスの言葉は正しい。クリスティーナも同意見であった。
例えばオリヴィエが自身の意志に従って動いているつもりが実は利用されているだけであるという場合。彼が良からぬ団体に利用された結果、その影響がオリヴィエと関りを持つクリスティーナ達へ降り掛かるなんていう可能性も捨てることは出来ない。
つまりリオはオリヴィエ単体を警戒しているというよりも、ディオンが率いる組織全体を警戒しているのだと言いたいのだろう。
「まあ、お嬢様の交友関係にはなるべく口出しをしたくはありませんし、オリヴィエ様への警戒や観察は俺達に任せてくれれば大丈夫ですよ。まずいと感じた時はきちんと説明した上で対処しますから」
「……そう」
「リンドバーグ卿はまあ……あまり役に立たないかもしれませんが」
「おい!」
どちらかと言えばオリヴィエに近しい人間性を持っているはずのエリアスの鈍感さなどに目を付けたリオは大袈裟に肩を竦め、そこへすかさず抗議の声が飛ぶ。
それを聞き流しながら足を進めていたクリスティーナはふと、進行方向に見えた大きな建物を見つける。
建物群の間から顔を覗かせるそれは大きく豪奢な造りをしたホールのようだ。
それは遠目から見ても昨晩足を運んだホールとは別格の物であると悟る。
「あちらは……頂いた招待状に記されていた辺りですね」
「ってことは例の舞踏会の会場かぁ」
主人の視線の先に気付いてかリオが補足を入れ、エリアスが華やかな建物の外観に感嘆の息を漏らしながら呟く。
三人は昼下がりの街の中、足を止めて暫しそのホールを見やっていた。
オリヴィエはクリスティーナ達と別れた後、目立たないルートを選び、路地裏を滑空していた。比較的大きな通りへ繋がる手前でゆったりと着地をした。
それはニコラとして働いている店に面した道。
店へ戻るまであと僅かという所で、オリヴィエの後方から声がする。
「よっ」
低く落ち着いた声。それが聞き覚えのある物でありながらも、突然降り掛かったことからオリヴィエは驚いてしまい、反射で振り返る。
「いい加減、ちっとくらい人の気配に敏感になってくれてもいいのになぁ」
目を見開き、勢いよく振り返った相手の様子に笑いながらディオンはオリヴィエを見やる。
見覚えのある顔を確認したオリヴィエは深々と息を吐きながら苛立ちを滲ませた声を出す。
「物音を殆ど立てないような相手の接近に気付くような輩がそうほいほいいてたまるか。ボス達が逸出してるだけですよ」
「はははっ、まあ否定はしないけどなぁ!」
「……揶揄いに来ただけなら戻りますけど」
「そんな訳ないだろ。オレは忙しいんだ」
背を向け、離れようとするオリヴィエをディオンは引き留める。
足を止め、半身で振り返った彼へ近づくと、ディオンはその耳元で低く囁いた。
「学院の魔導師らが動き出してる。いい加減、悠長にしてられる時間はないぞ」
いつの間にかディオンの顔からは笑みが消え、真剣な面持ちとなる。
彼から漂う緊張感にオリヴィエは顔を顰め、ため息とともに眼鏡を押し上げる。
「本当に叶えたい事があるのなら、早く行動に出ることだ。取り返しがつかなくなる前にな」
囁かれる忠告。
それを聞き届けながら、オリヴィエは静かに目を細めた。
「まあ、本人の意思に関係なく周りへ危険を振りまいてしまうケースなんてのはいくらでもあるしな。怪しいとこに関わってるってなら尚更だろ」
リオと、彼の見解に同意を示すエリアスの言葉は正しい。クリスティーナも同意見であった。
例えばオリヴィエが自身の意志に従って動いているつもりが実は利用されているだけであるという場合。彼が良からぬ団体に利用された結果、その影響がオリヴィエと関りを持つクリスティーナ達へ降り掛かるなんていう可能性も捨てることは出来ない。
つまりリオはオリヴィエ単体を警戒しているというよりも、ディオンが率いる組織全体を警戒しているのだと言いたいのだろう。
「まあ、お嬢様の交友関係にはなるべく口出しをしたくはありませんし、オリヴィエ様への警戒や観察は俺達に任せてくれれば大丈夫ですよ。まずいと感じた時はきちんと説明した上で対処しますから」
「……そう」
「リンドバーグ卿はまあ……あまり役に立たないかもしれませんが」
「おい!」
どちらかと言えばオリヴィエに近しい人間性を持っているはずのエリアスの鈍感さなどに目を付けたリオは大袈裟に肩を竦め、そこへすかさず抗議の声が飛ぶ。
それを聞き流しながら足を進めていたクリスティーナはふと、進行方向に見えた大きな建物を見つける。
建物群の間から顔を覗かせるそれは大きく豪奢な造りをしたホールのようだ。
それは遠目から見ても昨晩足を運んだホールとは別格の物であると悟る。
「あちらは……頂いた招待状に記されていた辺りですね」
「ってことは例の舞踏会の会場かぁ」
主人の視線の先に気付いてかリオが補足を入れ、エリアスが華やかな建物の外観に感嘆の息を漏らしながら呟く。
三人は昼下がりの街の中、足を止めて暫しそのホールを見やっていた。
オリヴィエはクリスティーナ達と別れた後、目立たないルートを選び、路地裏を滑空していた。比較的大きな通りへ繋がる手前でゆったりと着地をした。
それはニコラとして働いている店に面した道。
店へ戻るまであと僅かという所で、オリヴィエの後方から声がする。
「よっ」
低く落ち着いた声。それが聞き覚えのある物でありながらも、突然降り掛かったことからオリヴィエは驚いてしまい、反射で振り返る。
「いい加減、ちっとくらい人の気配に敏感になってくれてもいいのになぁ」
目を見開き、勢いよく振り返った相手の様子に笑いながらディオンはオリヴィエを見やる。
見覚えのある顔を確認したオリヴィエは深々と息を吐きながら苛立ちを滲ませた声を出す。
「物音を殆ど立てないような相手の接近に気付くような輩がそうほいほいいてたまるか。ボス達が逸出してるだけですよ」
「はははっ、まあ否定はしないけどなぁ!」
「……揶揄いに来ただけなら戻りますけど」
「そんな訳ないだろ。オレは忙しいんだ」
背を向け、離れようとするオリヴィエをディオンは引き留める。
足を止め、半身で振り返った彼へ近づくと、ディオンはその耳元で低く囁いた。
「学院の魔導師らが動き出してる。いい加減、悠長にしてられる時間はないぞ」
いつの間にかディオンの顔からは笑みが消え、真剣な面持ちとなる。
彼から漂う緊張感にオリヴィエは顔を顰め、ため息とともに眼鏡を押し上げる。
「本当に叶えたい事があるのなら、早く行動に出ることだ。取り返しがつかなくなる前にな」
囁かれる忠告。
それを聞き届けながら、オリヴィエは静かに目を細めた。
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