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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
122-2.虚弱な少女2
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「……話していて平気なの?」
「うん。というか、人と話すことすらできなくなったらそれこそ退屈で死んじゃうよ!」
「お前はいつだって喋りたがりだからな」
シャルロットの冗談に、オリヴィエが肩を竦めて口を挟む。
そんな彼が苦々しくも微笑を浮かべている様が少々珍しく感じ、クリスティーナは思わずその表情を見つめてしまう。
暫し彼の表情の動きを観察してしまう形になったが、その間、女性と目を合わせたがらないオリヴィエがクリスティーナの視線に気付いて振り向くことはなかったことが幸いであった。
(……そういえば)
笑いながらシャルロットと会話を続けるオリヴィエを見ながらふとクリスティーナは思う。
(彼女とは普通に話せるのね)
クリスティーナからは常に逸らされる視線はシャルロットへと真っ直ぐ向けられている。
その最中、オリヴィエは途中で動揺することも言動が不自然に変化することもなく、至って自然体といった振る舞いだ。
思い返してみれば、ノアやレミが傍にいた時も笑う機会こそ少なけれども砕けたやり取りは多かったように思える。
仏頂面と棘のある物言いが強い印象の青年だが、そうではない一面もあるらしいことをクリスティーナは悟ったのだった。
シャルロットから投げかけられる問いに答え、時折本の好みなどを探りながら談笑を繰り広げて暫くすると、ふとオリヴィエが口を開いた。
「そろそろ戻る」
「あ、もう時間か」
シャルロットの声に小さく頷きを返してからオリヴィエはクリスティーナ達へ向き直る。
オリヴィエの魔法の性質上、他者を移動させる為には事前に対象へ触れておかなければならない。彼がクリスティーナ一行を見やったのはその下準備の為だろう。
オリヴィエがリオとエリアスの体へ軽く触れる様を窓から眺めていたシャルロットはクリスティーナ達を見ながら目を細めて微笑んだ。
「良かったらまた来て欲しいな。正門で名乗ってくれれば案内してもらえるように話は通しておくからさ」
「貴女の一存で何とかなるものなの? 私達は出自も地位も明かしていない怪しい者だと思うけど」
「大丈夫大丈夫。友達が来るって言えば使用人の皆は喜んでくれるだろうし……親は私が誰を招こうが興味も示さないだろうから」
静かに睫毛を伏せて苦笑するシャルロットの言葉に気になる部分はあったが、それを言及出来るような雰囲気はない。
故にそれについて触れることはせず、代わりにオリヴィエを見やる。
もしシャルロットの言葉が真実だとするならば、オリヴィエがわざわざ塀を飛び越えて不当な侵入を繰り返す理由がわからない。
クリスティーナの言わんとしていることを察したのだろう。シャルロットは大きく息を吐いて笑った。
「オリヴィエにも言ってるんだよ。どうしてだか頑なに嫌がるんだけど」
「……行くぞ」
「あ、ほらまた。都合の悪い話になるとすぐ逃げる」
「逃げてはいない。本当に予定があるだけだ」
シャルロットから受けた指摘に対し、眉間に皺を寄せながらオリヴィエは浮遊する。
数秒程遅れてからリオと彼に抱き上げられるクリスティーナ、エリアスの体も浮かび上がり、本人らの意思とは関係なしにシャルロットから離れていく。
「考えておいてね! バイバイ!」
口元に手を当てて少しだけ張り上げられる声。
元気に振られる手と見送られる笑顔はやがて飛び越えた塀に阻まれて見えなくなった。
「うん。というか、人と話すことすらできなくなったらそれこそ退屈で死んじゃうよ!」
「お前はいつだって喋りたがりだからな」
シャルロットの冗談に、オリヴィエが肩を竦めて口を挟む。
そんな彼が苦々しくも微笑を浮かべている様が少々珍しく感じ、クリスティーナは思わずその表情を見つめてしまう。
暫し彼の表情の動きを観察してしまう形になったが、その間、女性と目を合わせたがらないオリヴィエがクリスティーナの視線に気付いて振り向くことはなかったことが幸いであった。
(……そういえば)
笑いながらシャルロットと会話を続けるオリヴィエを見ながらふとクリスティーナは思う。
(彼女とは普通に話せるのね)
クリスティーナからは常に逸らされる視線はシャルロットへと真っ直ぐ向けられている。
その最中、オリヴィエは途中で動揺することも言動が不自然に変化することもなく、至って自然体といった振る舞いだ。
思い返してみれば、ノアやレミが傍にいた時も笑う機会こそ少なけれども砕けたやり取りは多かったように思える。
仏頂面と棘のある物言いが強い印象の青年だが、そうではない一面もあるらしいことをクリスティーナは悟ったのだった。
シャルロットから投げかけられる問いに答え、時折本の好みなどを探りながら談笑を繰り広げて暫くすると、ふとオリヴィエが口を開いた。
「そろそろ戻る」
「あ、もう時間か」
シャルロットの声に小さく頷きを返してからオリヴィエはクリスティーナ達へ向き直る。
オリヴィエの魔法の性質上、他者を移動させる為には事前に対象へ触れておかなければならない。彼がクリスティーナ一行を見やったのはその下準備の為だろう。
オリヴィエがリオとエリアスの体へ軽く触れる様を窓から眺めていたシャルロットはクリスティーナ達を見ながら目を細めて微笑んだ。
「良かったらまた来て欲しいな。正門で名乗ってくれれば案内してもらえるように話は通しておくからさ」
「貴女の一存で何とかなるものなの? 私達は出自も地位も明かしていない怪しい者だと思うけど」
「大丈夫大丈夫。友達が来るって言えば使用人の皆は喜んでくれるだろうし……親は私が誰を招こうが興味も示さないだろうから」
静かに睫毛を伏せて苦笑するシャルロットの言葉に気になる部分はあったが、それを言及出来るような雰囲気はない。
故にそれについて触れることはせず、代わりにオリヴィエを見やる。
もしシャルロットの言葉が真実だとするならば、オリヴィエがわざわざ塀を飛び越えて不当な侵入を繰り返す理由がわからない。
クリスティーナの言わんとしていることを察したのだろう。シャルロットは大きく息を吐いて笑った。
「オリヴィエにも言ってるんだよ。どうしてだか頑なに嫌がるんだけど」
「……行くぞ」
「あ、ほらまた。都合の悪い話になるとすぐ逃げる」
「逃げてはいない。本当に予定があるだけだ」
シャルロットから受けた指摘に対し、眉間に皺を寄せながらオリヴィエは浮遊する。
数秒程遅れてからリオと彼に抱き上げられるクリスティーナ、エリアスの体も浮かび上がり、本人らの意思とは関係なしにシャルロットから離れていく。
「考えておいてね! バイバイ!」
口元に手を当てて少しだけ張り上げられる声。
元気に振られる手と見送られる笑顔はやがて飛び越えた塀に阻まれて見えなくなった。
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