上 下
378 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

122-2.虚弱な少女2

しおりを挟む
「……話していて平気なの?」
「うん。というか、人と話すことすらできなくなったらそれこそ退屈で死んじゃうよ!」
「お前はいつだって喋りたがりだからな」

 シャルロットの冗談に、オリヴィエが肩を竦めて口を挟む。
 そんな彼が苦々しくも微笑を浮かべている様が少々珍しく感じ、クリスティーナは思わずその表情を見つめてしまう。

 暫し彼の表情の動きを観察してしまう形になったが、その間、女性と目を合わせたがらないオリヴィエがクリスティーナの視線に気付いて振り向くことはなかったことが幸いであった。

(……そういえば)

 笑いながらシャルロットと会話を続けるオリヴィエを見ながらふとクリスティーナは思う。

(彼女とは普通に話せるのね)

 クリスティーナからは常に逸らされる視線はシャルロットへと真っ直ぐ向けられている。
 その最中、オリヴィエは途中で動揺することも言動が不自然に変化することもなく、至って自然体といった振る舞いだ。
 思い返してみれば、ノアやレミが傍にいた時も笑う機会こそ少なけれども砕けたやり取りは多かったように思える。
 仏頂面と棘のある物言いが強い印象の青年だが、そうではない一面もあるらしいことをクリスティーナは悟ったのだった。



 シャルロットから投げかけられる問いに答え、時折本の好みなどを探りながら談笑を繰り広げて暫くすると、ふとオリヴィエが口を開いた。

「そろそろ戻る」
「あ、もう時間か」

 シャルロットの声に小さく頷きを返してからオリヴィエはクリスティーナ達へ向き直る。
 オリヴィエの魔法の性質上、他者を移動させる為には事前に対象へ触れておかなければならない。彼がクリスティーナ一行を見やったのはその下準備の為だろう。

 オリヴィエがリオとエリアスの体へ軽く触れる様を窓から眺めていたシャルロットはクリスティーナ達を見ながら目を細めて微笑んだ。

「良かったらまた来て欲しいな。正門で名乗ってくれれば案内してもらえるように話は通しておくからさ」
「貴女の一存で何とかなるものなの? 私達は出自も地位も明かしていない怪しい者だと思うけど」
「大丈夫大丈夫。友達が来るって言えば使用人の皆は喜んでくれるだろうし……親は私が誰を招こうが興味も示さないだろうから」

 静かに睫毛を伏せて苦笑するシャルロットの言葉に気になる部分はあったが、それを言及出来るような雰囲気はない。
 故にそれについて触れることはせず、代わりにオリヴィエを見やる。

 もしシャルロットの言葉が真実だとするならば、オリヴィエがわざわざ塀を飛び越えて不当な侵入を繰り返す理由がわからない。
 クリスティーナの言わんとしていることを察したのだろう。シャルロットは大きく息を吐いて笑った。

「オリヴィエにも言ってるんだよ。どうしてだか頑なに嫌がるんだけど」
「……行くぞ」
「あ、ほらまた。都合の悪い話になるとすぐ逃げる」
「逃げてはいない。本当に予定があるだけだ」

 シャルロットから受けた指摘に対し、眉間に皺を寄せながらオリヴィエは浮遊する。
 数秒程遅れてからリオと彼に抱き上げられるクリスティーナ、エリアスの体も浮かび上がり、本人らの意思とは関係なしにシャルロットから離れていく。

「考えておいてね! バイバイ!」

 口元に手を当てて少しだけ張り上げられる声。
 元気に振られる手と見送られる笑顔はやがて飛び越えた塀に阻まれて見えなくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!

鏑木 うりこ
ファンタジー
 幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。 勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた! 「家庭菜園だけかよーー!」  元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?  大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

転生王女は現代知識で無双する

紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。 突然異世界に転生してしまった。 定番になった異世界転生のお話。 仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。 見た目は子供、頭脳は大人。 現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。 魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。 伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。 読んでくれる皆さまに心から感謝です。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。 貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。 …あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?

前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・

y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える! てってれてーてってれてーてててててー! やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪ 一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ この小説の主人公は神崎 悠斗くん 前世では色々可哀想な人生を歩んでね… まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪ 前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる 久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく 色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー 友情、熱血、愛はあるかわかりません! ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ

処理中です...