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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
121-2.虚弱な少女
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幸い、館に住んでいるらしい令嬢はクリスティーナ達の不躾な侵入にも気を悪くした様子はない。
そのことに安心をしつつ、せめて悪意があって忍び込んだわけでわない意図が伝わるようにとクリスティーナは頭を下げた。
「彼に面白い本を選ぶ為に手を貸して欲しいと頼まれた者よ。まさか人の敷地へ連れて来られるとは思ってなかったけれど」
「驚いたでしょ。オリヴィエはいつも言葉が足りない上に滅茶苦茶な行動をするからね」
この街ではオリヴィエの名として浸透しているはずの『ニコラ』ではなく『オリヴィエ』と相手を呼ぶシャルロット。
そして彼の性格を知っている故に推測できる現在の状況。それを言葉に含ませながら、クリスティーナ達を咎めるつもりはないと彼女は困ったように笑った。
オリヴィエの言動が滅茶苦茶であることについては肯定する要素しかない為、クリスティーナは聞き流す。
だがその代わりにと、不本意ながら不法侵入という無礼を働いた詫びを述べるべく自分達の呼び名を明かした。
「私はクリス。こちらはリオとエリアス。しがない旅人よ」
「自己紹介どうもありがとう。私はシャルロット。学友からはシャリーって呼ばれたりすることもあるかな。呼びやすいように呼んで」
「シャリー……」
明るい表情と声で自身について語るシャルロット。彼女が自身の愛称を口にした時、それは妙にクリスティーナの耳へ馴染んだ。
どこかで聞いたことのある愛称。最近耳にした気がしたクリスティーナは彼女の愛称を反芻しながら記憶を遡る。
そしてすぐに思い至った。
「……ノアが話していたわね」
迷宮『エシェル』を進んでいた時のことだ。今後の立ち回りを相談する際、魔法学院への転移に対して異を唱えたオリヴィエを説得する為にノアが出した名があった。
それがシェリーと呼ばれる人物であったことをクリスティーナは思い出す。
そして彼女の声をきっかけにリオやエリアスも遅れて思い至ったようだ。
彼らは合点がいったように頷いた。
「ノア? 貴女達、ノアに会ったんだ」
「おい、また落ちる気か」
一方でシャルロットは自身が知っている人物の名が出された途端に身を乗り出す。
それをオリヴィエが宥める傍で尚、彼女は目を輝かせる。
「旅の人とこうして話せる機会は今までなかったなぁ。もしよかったら色々聞かせてくれない? それに友人が今どんな様子なのかも知りたいな」
その勢いに驚き、一歩身を引こうとしたクリスティーナはしかし、すぐに別のことへ気付いてその足を止めた。
窓の縁を掴む手はあまりにも細く、頼りない。
本人があまりにも明るく振る舞うせいで目立たなかったが、その顔色は良いとは言えない青白さで、やつれていた。
目の前の少女がどう見ても健康ではないことは明らかであった。
それでも館の外を夢描き、好奇心から目を輝かせる純粋な眼差しはとても眩しい物であった。
(もしかしたら、あまり外に出られない体なのかもしれないわね)
部屋に籠りがちであった母が思い出されるからか、思いを馳せる外に出ることが出来ない少女の境遇を哀れと思ったからかはクリスティーナ自身にもわからない。
「……大した話は出来ないけれど」
「ありがとう!」
ただ、複雑な感情を抱きながらクリスティーナは小さく頷いたのだった。
そのことに安心をしつつ、せめて悪意があって忍び込んだわけでわない意図が伝わるようにとクリスティーナは頭を下げた。
「彼に面白い本を選ぶ為に手を貸して欲しいと頼まれた者よ。まさか人の敷地へ連れて来られるとは思ってなかったけれど」
「驚いたでしょ。オリヴィエはいつも言葉が足りない上に滅茶苦茶な行動をするからね」
この街ではオリヴィエの名として浸透しているはずの『ニコラ』ではなく『オリヴィエ』と相手を呼ぶシャルロット。
そして彼の性格を知っている故に推測できる現在の状況。それを言葉に含ませながら、クリスティーナ達を咎めるつもりはないと彼女は困ったように笑った。
オリヴィエの言動が滅茶苦茶であることについては肯定する要素しかない為、クリスティーナは聞き流す。
だがその代わりにと、不本意ながら不法侵入という無礼を働いた詫びを述べるべく自分達の呼び名を明かした。
「私はクリス。こちらはリオとエリアス。しがない旅人よ」
「自己紹介どうもありがとう。私はシャルロット。学友からはシャリーって呼ばれたりすることもあるかな。呼びやすいように呼んで」
「シャリー……」
明るい表情と声で自身について語るシャルロット。彼女が自身の愛称を口にした時、それは妙にクリスティーナの耳へ馴染んだ。
どこかで聞いたことのある愛称。最近耳にした気がしたクリスティーナは彼女の愛称を反芻しながら記憶を遡る。
そしてすぐに思い至った。
「……ノアが話していたわね」
迷宮『エシェル』を進んでいた時のことだ。今後の立ち回りを相談する際、魔法学院への転移に対して異を唱えたオリヴィエを説得する為にノアが出した名があった。
それがシェリーと呼ばれる人物であったことをクリスティーナは思い出す。
そして彼女の声をきっかけにリオやエリアスも遅れて思い至ったようだ。
彼らは合点がいったように頷いた。
「ノア? 貴女達、ノアに会ったんだ」
「おい、また落ちる気か」
一方でシャルロットは自身が知っている人物の名が出された途端に身を乗り出す。
それをオリヴィエが宥める傍で尚、彼女は目を輝かせる。
「旅の人とこうして話せる機会は今までなかったなぁ。もしよかったら色々聞かせてくれない? それに友人が今どんな様子なのかも知りたいな」
その勢いに驚き、一歩身を引こうとしたクリスティーナはしかし、すぐに別のことへ気付いてその足を止めた。
窓の縁を掴む手はあまりにも細く、頼りない。
本人があまりにも明るく振る舞うせいで目立たなかったが、その顔色は良いとは言えない青白さで、やつれていた。
目の前の少女がどう見ても健康ではないことは明らかであった。
それでも館の外を夢描き、好奇心から目を輝かせる純粋な眼差しはとても眩しい物であった。
(もしかしたら、あまり外に出られない体なのかもしれないわね)
部屋に籠りがちであった母が思い出されるからか、思いを馳せる外に出ることが出来ない少女の境遇を哀れと思ったからかはクリスティーナ自身にもわからない。
「……大した話は出来ないけれど」
「ありがとう!」
ただ、複雑な感情を抱きながらクリスティーナは小さく頷いたのだった。
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