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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
117-2.謎に包まれた組織
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「ボス……!」
「承諾しかねるお誘いですね」
男の言葉に真っ先に声を上げたのはオリヴィエ。その咎めるような声に続く形で、リオが静かに言葉を紡いだ。
その口調は通常時の穏やかさとさして変わりはしないものの、どこか抑揚が少なく淡々とした冷たさを感じるものだ。
「彼……ニコラ様は貴方が長であることを示した呼び名をお使いになりますし、貴方ご自身も今、アジトという言葉を用いましたよね。更にあれだけ派手な窃盗を行われたのにも拘らず、その一連の流れが円滑に運ばれたことを鑑みれば、現場にはニコラ様の協力者がいたと考えるのは自然です」
リオはクリスティーナを更に自身の背で隠しながらオリヴィエと男を見る。
目の前の者達が主人に仇なす存在ではないか。それを探るように彼の目は細められた。
「つまり貴方方は何らかの組織に組みしている立場であるということでしょう。そしてその人数も規模も定かではない。明かされたとてこちらが確証を得る手段もない」
一つ呼吸が置かれる。男は当然予想していた返答だと言うように薄く笑みを浮かべたまま相手の言い分に耳を傾けており、オリヴィエも口を挟むつもりはないようだ。
僅かな間を齎した後、リオは更に話を続けた。
「もう一つ。先のやり取りをお伺いするに、そしてここに至るまでの貴方方の動きを見るに、お二人はそれが危険物だとわかった上で率先して収集されているという事でしょう」
話の結論は先に提示されている。だがその意志が固いことを強調するように、リオは目の前の二人へ対する評価を添え、自身の言い分を明らかとした。
「危険物を扱う組織。その素性も規模もわからないような方々の拠点へ誘われ、簡単に頷けるとお思いですか」
クリスティーナの主張も概ねリオと同じである。いくら知人が気掛かりであり、怪しい魔導具が気になるとは言え、謎の多すぎる組織のアジトへ突撃する程考えなしではない。
「フラれちまったなぁ。ま、それが当たり前か」
リオの言葉を否定する素振りを見せなかったからだろう。クリスティーナも同意見であることを悟った男は苦笑した。
「信じるも信じまいも自由だが、オレの素性が気になるってなら簡単に自己紹介はしておこうか」
男は懐中時計をポケットへしまい込み、代わりにブローチを取り出す。
クリスティーナとリオはそれに見覚えがあった。それはアレットがローブに着けていた物と全く同じ姿をしていたからだ。
「オレは第一級国家魔導師、ディオン・ベルナールだ」
「承諾しかねるお誘いですね」
男の言葉に真っ先に声を上げたのはオリヴィエ。その咎めるような声に続く形で、リオが静かに言葉を紡いだ。
その口調は通常時の穏やかさとさして変わりはしないものの、どこか抑揚が少なく淡々とした冷たさを感じるものだ。
「彼……ニコラ様は貴方が長であることを示した呼び名をお使いになりますし、貴方ご自身も今、アジトという言葉を用いましたよね。更にあれだけ派手な窃盗を行われたのにも拘らず、その一連の流れが円滑に運ばれたことを鑑みれば、現場にはニコラ様の協力者がいたと考えるのは自然です」
リオはクリスティーナを更に自身の背で隠しながらオリヴィエと男を見る。
目の前の者達が主人に仇なす存在ではないか。それを探るように彼の目は細められた。
「つまり貴方方は何らかの組織に組みしている立場であるということでしょう。そしてその人数も規模も定かではない。明かされたとてこちらが確証を得る手段もない」
一つ呼吸が置かれる。男は当然予想していた返答だと言うように薄く笑みを浮かべたまま相手の言い分に耳を傾けており、オリヴィエも口を挟むつもりはないようだ。
僅かな間を齎した後、リオは更に話を続けた。
「もう一つ。先のやり取りをお伺いするに、そしてここに至るまでの貴方方の動きを見るに、お二人はそれが危険物だとわかった上で率先して収集されているという事でしょう」
話の結論は先に提示されている。だがその意志が固いことを強調するように、リオは目の前の二人へ対する評価を添え、自身の言い分を明らかとした。
「危険物を扱う組織。その素性も規模もわからないような方々の拠点へ誘われ、簡単に頷けるとお思いですか」
クリスティーナの主張も概ねリオと同じである。いくら知人が気掛かりであり、怪しい魔導具が気になるとは言え、謎の多すぎる組織のアジトへ突撃する程考えなしではない。
「フラれちまったなぁ。ま、それが当たり前か」
リオの言葉を否定する素振りを見せなかったからだろう。クリスティーナも同意見であることを悟った男は苦笑した。
「信じるも信じまいも自由だが、オレの素性が気になるってなら簡単に自己紹介はしておこうか」
男は懐中時計をポケットへしまい込み、代わりにブローチを取り出す。
クリスティーナとリオはそれに見覚えがあった。それはアレットがローブに着けていた物と全く同じ姿をしていたからだ。
「オレは第一級国家魔導師、ディオン・ベルナールだ」
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