上 下
358 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

112-2.開幕前

しおりを挟む
「まあ、俺達が知らされたオークションは主催者の認めた者でしか参加が出来ないものですから。参加者は貴族の中でもさらに絞られていると考えれば、招待状を得られない者はこういった場で目ぼしい品を探すのかもしれませんね」
「ほー、なるほどなぁ」
「それにしても、街の規模に対してオークションに出席する人数が多い気はするわね」

 ニュイは決して広い街ではない。街を行き交う人々の数を鑑みても、土地相応の人工であると考えられるだろう。
 となればオークションに出品される多額の金が詰まれるような物を求める裕福層の数も多くはないはずだ。
 まず娯楽の為に金を費やせる者の母数が少ないこと、そこから更に珍しいアンティークや魔導具に興味を示し、オークションに出席したがる割合を考えれば、埋まっている席の数はクリスティーナにとって意外な数であったと言える。

 また、身綺麗な平民や豪奢な服に身を包んだ貴族はまだしも、ややみすぼらしさを覚えるような、豊かな生活を送っているとは思えない身なりの者まで見つけることが出来た。
 このオークションの入場料は決して高いわけではない。それこそ金銭に余裕のない平民であっても少しずつ貯金をしたり、節約や一定期間我慢を強いる生活をするだけで集められるような額だ。

 だがそんな苦労をして集めた金も全てホールの中へ入る為の金銭として徴収される。その後開催される競りに参加するだけの額は残らないだろう。
 そんな、何かを競り落とすだけの額を持っているとは思えないような身なりの者が少なからず見受けられたのがクリスティーナは特に気になった。

 参加者やホール全体の様子を観察しながら、時に雑談を交えながら三人は各々時間を潰す。
 競り自体の開始時刻が近づいた頃合い。刻々と近づく時間につられるように観客席へ進む客の数が多くなる。

 その時、客の波に呑まれた幼い少女が席の通路で足を取られ、転倒する。
 恐らくは親に連れられてやって来たのだろう。床に両手をついた少女は連れを探すように視線を彷徨わせるが、どうやら目的の人物の姿を見つけることは出来なかったようだ。

 転倒から数秒の間を空けてから、その幼い顔は見る見るうちに歪み、大きな瞳から涙が溢れた。

「ママ……っ、ママァ!」

 他の客は落ち着いた雰囲気の会場に不釣り合いな程わんわんと泣きじゃくる少女を避けるように通り過ぎ、自身の席の確保へと勤しむ。
 泣き喚く少女の声は思いの外大きく、彼女の連れがその声に気付いて合流するのも時間の問題だろう。
 しかし場違いにも騒ぎ立てる幼い姿には、周囲の席に座る客の冷たい視線が集まりつつある。中には舌打ちをする客もおり、その厳しい視線と態度が更に少女の恐怖心を煽る。

「向かいましょうか?」

 ふと、親を探す少女の姿を見守っていたクリスティーナへとリオが声を掛ける。
 泣き続ける少女が気に掛り、また周囲の人物の反応の品のなさが鼻についたこともあり、場の収拾を求めようとクリスティーナは頷きかける。
 しかしそれよりも先に動く人影があった。

「どうされましたか、レディ」

 靴の踵を小さく鳴らしながら、その人物は少女へと丁寧な仕草で片膝をつく。
 それはシルクハットを被った男。金髪の髪を帽子の下に隠した彼は、ポケットからハンカチを取り出しながら少女へと差し出しながらその顔を覗き込んだのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブラフマン~疑似転生~

臂りき
ファンタジー
プロメザラ城下、衛兵団小隊長カイムは圧政により腐敗の兆候を見せる街で秘密裏に悪徳組織の摘発のため日夜奮闘していた。 しかし、城内の内通者によってカイムの暗躍は腐敗の根源たる王子の知るところとなる。 あらぬ罪を着せられ、度重なる拷問を受けた末に瀕死状態のまま荒野に捨てられたカイムはただ骸となり朽ち果てる運命を強いられた。 死を目前にして、カイムに呼びかけたのは意思疎通のできる死肉喰(グールー)と、多層世界の危機に際して現出するという生命体<ネクロシグネチャー>だった。  二人の助力により見事「完全なる『死』」を迎えたカイムは、ネクロシグネチャーの技術によって抽出された、<エーテル体>となり、最適な適合者(ドナー)の用意を約束される。  一方、後にカイムの適合者となる男、厨和希(くりやかずき)は、半年前の「事故」により幼馴染を失った精神的ショックから立ち直れずにいた。  漫然と日々を過ごしていた和希の前に突如<ネクロシグネチャー>だと自称する不審な女が現れる。  彼女は和希に有無を言わせることなく、手に持つ謎の液体を彼に注入し、朦朧とする彼に対し意味深な情報を残して去っていく。  ――幼馴染の死は「事故」ではない。何者かの手により確実に殺害された。 意識を取り戻したカイムは新たな肉体に尋常ならざる違和感を抱きつつ、記憶とは異なる世界に馴染もうと再び奮闘する。 「厨」の身体をカイムと共有しながらも意識の奥底に眠る和希は、かつて各国の猛者と渡り合ってきた一兵士カイムの力を借り、「復讐」の鬼と化すのだった。 ~魔王の近況~ 〈魔海域に位置する絶海の孤島レアマナフ。  幽閉された森の奥深く、朽ち果てた世界樹の残骸を前にして魔王サティスは跪き、神々に祈った。  ——どうかすべての弱き者たちに等しく罰(ちから)をお与えください——〉

【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!

鏑木 うりこ
ファンタジー
 幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。 勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた! 「家庭菜園だけかよーー!」  元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?  大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!

ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた

八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』 俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。 レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。 「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」 レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。 それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。 「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」 狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。 その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった―― 別サイトでも投稿しております。

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・ 気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました! 2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・ だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・ 出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!  ♢ ♢ ♢ 所謂、異世界転生ものです。 初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。 内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。 「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。 ※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。

kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。 前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。 やばい!やばい!やばい! 確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。 だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。 前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね! うんうん! 要らない!要らない! さっさと婚約解消して2人を応援するよ! だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。 ※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。

異世界陸軍活動記

ニボシサービス
ファンタジー
病弱だった青年が異世界に飛ばされ、そこで軍人として活躍するお話です

処理中です...