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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

111-2.動き出す両者

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 クリスティーナは自身が世間知らずであることを自覚している。政治や社会情勢については書籍や噂で耳に挟むものの、現代の世の在り方を理解するにはそれでは不十分であることを知っている。
 故に自分が成長する為にも、これからの為にも出来る限り世の様々な側面を見て、知る機会を得たいという考えがクリスティーナの中には生まれていた。

「それに、貴方達は出来得る限り私の意見を尊重してくれるのでしょう」

 クリスティーナは薄く笑みを浮かべ、挑戦的な視線を二人へ向ける。

「オークションに参加する主人を守ることは、貴方達の実力を以てしても不可能なことなのかしら」

 挑発のような物言い。
 それを受けたリオとエリアスの返答は決まっていた。

 リオは呆れたように肩を竦め、エリアスは口角を上げる。そうして二人は主人の言葉に応えてみせた。


***


 店の食事処が開店時間となり、賑やかになる室内をオリヴィエは忙しなく歩き回る。
 穏やかな作り笑いを浮かべながら仕事を熟しつつも、オリヴィエの視線は時折店内をぐるりと見やるように動かされる。

(まだ戻ってきてないか)

 考えるのは宿泊客であるクリスティーナ達のこと。
 知人である以上、自身が働いている姿を見られることには少なからず気まずさや気恥ずかしさを覚えてしまうものだ。いつ鉢合わせるものかと変に意識してしまい、内心やや緊張を覚えながらもオリヴィエは店員としての仕事を続ける。

 とあるテーブルへビールの注がれたジョッキを置く。
 その時、黄緑の瞳が窓の外で何かを捉えた。
 それと同時に微笑を浮かべていた彼の顔から表情が消え、眉根が寄せられる。
 だがそれも一瞬のことだ。

 オリヴィエはすぐに表情を取り持つと、カウンター近くへいたグレースへと近づいて声を掛けた。

「母さん、数分だけ休憩してきてもいい?」
「うん? ああ、そういえばずっと働きっぱなしだったね。いいよ」

 いってらっしゃいとグレースに見送られ、それに礼を述べながらオリヴィエは店を出た。

 ベルを鳴らして出た先は店内に比べて静かで落ち着いている。
 夜特有の静けさを感じさせる外を歩き、オリヴィエは店の角、路地裏へと足を進めた。
 そしてとあるタイミングでオリヴィエは足を止めた。

「よぉ」

 オリヴィエの視界の端、壁にもたれたがたいの良い男が声を掛ける。
 それを黄緑の瞳で捉えながらもオリヴィエは口を閉ざす。
 そんな彼の態度を気にすることもなく、男は人差し指と中指に挟んだ一通の便箋をオリヴィエへと差し出した。

「仕事だ」
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