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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

111-1.動き出す両者

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 頻繁にオークションを催しているというホールの場所を聞いたクリスティーナ達は日の沈んだ街中を歩いていく。
 辿り着いたのは周辺の建物よりもやや大きな建築物。広い出入り口は現在固く閉ざされており、今晩は使われる予定がないことは明らかであった。
 しかしクリスティーナ達の目的は会場そのものではなく、その入り口付近に備え付けられた掲示板である。

 三人は掲示板まで近づくとそこへ貼りだされている予定表やオークションの詳細等へ目を通し始めた。

「……思いの外、開催頻度は高いようですね。その分出品される品の数が少なく、規模も小さいようではありますが」
「数日単位で予定が入ってるし、直近で明日開催予定のものまであるな。オークションの参加者なんてそもそもの母数も多くはないだろうに」
「それこそ領主主催の大規模な催し物であれば物好きな貴族も集まるでしょうが、こちらで開かれる競りはどれもそうではなさそうですからね。それでもこれだけの頻度で開かれるという事は一応主催側にメリットがあるという事ではあるんでしょう」

 数日間隔で埋まっているホールの予定表。その殆どは深夜帯の小規模オークションだ。
 掲示板には予定表の他、近々開催されるオークションの出品リストなど詳細の記された紙も貼り出されている。それらを確認する限り、クリスティーナ達が望むような品は見つからなかった。
 しかしいくつかのオークションには出品リストに載っている物品の他にも当日明らかとなる品が存在しているらしい。つまり、目当ての品が出品リストに記載されていない物であったとしても、当日足を運んでみれば運よく巡り合わせる事もあるという事だ。

「わざわざ怪しいオークションに行かなくても済むかもしれないなら覗いてみても良いかもしれないけどなぁ」
「しかしこちらが安全とも言い切れない部分もあります。個々が自由に手掛けている分、会場内の規則などが緩く、秩序が保たれていない可能性はありますからね」
「……けど、できることなら早くここを発ちたい。そうでしょう」

 静かに耳を傾けていたクリスティーナはやがてどうすることが最善かと意見を交換し合う二人の会話へ口を挟んだ。
 二つの視線がクリスティーナへと向けられる。

「……それに、私達は誰もこういった催し物に詳しいわけではない。仮に、二週間後のオークションへ出席するにしてもそれ以前に基本的な知識は備えておかなければならないはずよ」
「しかし……」

 クリスティーナの主張に、リオが僅かな躊躇いを見せる。
 規則と身分に統制された環境で生きてきた主人を無秩序が広がっているかもしれない環境へ連れていくことに対する抵抗感。それ故の反応であることをクリスティーナは理解する。
 その上で彼女は言葉を付け加えた。

「催し物自体、そこまで規模の大きなものではないでしょう。それに、安定した環境で育った私はまだ世間に対して無知だわ。この先、自分がどうすべきか考える為の指針としても、世間の良からぬ面にも向き合う必要はあると思うの」

 聖女という立場と能力を持て余しているクリスティーナ。人とは違う自分がどう生きるべきなのか、この力をどう使うべきなのか。大雑把な目標すら立てられない現状は彼女へもどかしさを少なからず与えた。
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