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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

105-1.偽りの顔

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 三人は空いている席へと通される。案内された席に腰を掛ける三人は入り口前で話しているオリヴィエと女性の様子を盗み見た。
 何やら嬉しそうに微笑んでいる女性と、彼女の荷物を肩代わりしながら困ったように眉根を寄せるオリヴィエ。
 それを視界に留めながらエリアスが口を開く。

「しっかし驚いたなぁ。こんな早く再会するとは」
「同じ街にいる限りそういった可能性はあると思ってましたけど。それよりは彼に接客が出来ることの方が意外でしたね」

 言葉を交わす護衛達の声を聞き流しながらクリスティーナは考え込む。
 視線の先、女性との話に区切りをつけたオリヴィエは受け取った荷物を置く為に一度キッチンへ向かった後、再び姿を見せて料理や飲み物を席へと運び始める。
 女性もまた仕事を熟すべく伝票を持って席を渡り歩くようになる。

(……ニコラ)

 クリスティーナは店へ入る直前に女性が挙げた名前を頭の中で反芻する。
 店で働いている人物は女性とオリヴィエ、後はキッチンに立つ料理人くらいのように見える。
 ニコラという名前が裏方で働いている人物のものである可能性はある。しかし仮にそうでなかった場合、それはオリヴィエを指すものであるという事だ。
 そんな考えが過り、同時に浮かんだ疑問を解消したい気持ちに駆られる。
 そこへ女性がクリスティーナ達へと近づいた。

「お待たせしてごめんなさいね」
「いいえ」
「結構賑やかっすね」

 注文を聞く女性へ、リオとエリアスが事前に決めていた料理を告げていく。
 それを伝票へ書き留め、注文を伝える為に籍を離れようとする女性へクリスティーナは声を掛けた。

「……ニコラというのは?」

 投げられた問いに、女性は目を丸くする。
 しかしすぐに笑みを深めるとある方向へ振り向いた。

「ああ、あの子のことよ」

 彼女が投げた視線の先は一つのテーブルだ。
 酔っ払った男性二人と、彼らに絡まれて呆れたような顔をしているオリヴィエ。
 それを確認したクリスティーナはため息を呑み込んで頷いた。

「そう」
「良くできた子なんだけど、友達を家に連れて来るようなことはなくってねぇ……心配してたのよ。これも何かの縁だろうし、良かったら仲良くしてあげてね」

 そう言い残し、今度こそ女性は去っていく。
 その背中を見送るクリスティーナの正面でエリアスが首を傾げる。

「ん? ニコラはオリヴィエでオリヴィエはニコラ……ん?」
「どちらかが偽名という事でしょうか」

 クリスティーナの傍らではリオも疑問を零している。
 オリヴィエ自身のことを殆ど知らないクリスティーナの中で、彼という存在は更に謎に包まれていく。

 そこへ、キッチンから三人分の飲み物を受け取ったオリヴィエがクリスティーナ達のテーブルへと近づいた。
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