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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
104-2.過る面影
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「ノア様の影響ですか?」
リオの問いに、クリスティーナは一度口を閉ざす。
人と接することに慣れていない上、母国では高貴な立場にあったクリスティーナは見ず知らずの通行人へ進んで助けに動くことなどしたことがなかった。
旅を始めてからも会話は得意ではないという性格上、初対面の相手へ声を掛けるという行動は彼女にとって躊躇ってしまうようなことであった。
それでもこうして自ら他者へ距離を詰めた背景に、あのお人好しな魔導師と関りを持ったことが絡んでいることは間違いなかった。
「……お人好しが移ったわ」
「良いんじゃないですか。ご立派でしたよ」
柄にもないことをしてしまった照れ臭さから視線を落とす。
そんなクリスティーナの様子を見て、リオが愛おしそうに微笑んだ。
女性について行くと、ニュイの中心からやや南へ向かった場所に位置する酒場の前までやって来る。
日が暮れ始めた時間帯、店内は既に賑わい始めているようで騒がしい笑い声が扉の外まで聞こえていた。
店の前で足を止めた女性は礼を述べながら扉の前に立つ。
「うちは酒場と宿をやっているの。席も客室も大きくない、小さな店なんだけれど」
扉に手を掛けながら女性はクリスティーナ達へ振り返ってはにかむ。
「そういえば貴方達、ニコラと年が近そうね。うちの息子なんだけれど」
開く扉。更に大きく聞こえる喧噪。
女性は三人を店内へ招き入れながら話を続けた。
「そうだ、ご飯がまだなら是非食べて言って頂戴。お礼もしたいの」
「気遣いは結構よ。こちらが勝手にしたことだもの」
「そう言わないで。助かったのは事実なんだから」
賑やかな店内へ四人が足を踏み入れる。
それから程なくして、テーブルに座る客の相手をしていた青年が飲み物の乗ったトレイを片手に入口へやって来る。
「いらっしゃいませー、何名様で……」
店員であることが一目見てわかるエプロンを腰に巻き、穏やかに笑う青年はそこで言葉を切る。
眼鏡の奥、黄緑色の瞳が大きく見開かれた。
「あ!」
真っ先に声を上げ、彼へ指を突き付けたのはエリアス。
不思議そうに首を傾ける女性をよそに、クリスティーナ達と青年は静かに見つめ合った。
「……三名様で?」
やがて青年は取り繕うように再びにっこりと微笑みを浮かべる。
見覚えのある顔。しかしその外面の良い表情はクリスティーナ達が知る人物の雰囲気とは大きく異なっていた。
「別人?」
「いや、よく見てください。あの人中指立ててますよ」
「品がないわね。間違いなく本人でしょう」
彼から顔を背け、声を潜めるクリスティーナ達三人。
それを眼鏡の奥で見据えながら、オリヴィエは空いている手でこっそりと中指を立て、虫の居所の悪さを主張していた。
リオの問いに、クリスティーナは一度口を閉ざす。
人と接することに慣れていない上、母国では高貴な立場にあったクリスティーナは見ず知らずの通行人へ進んで助けに動くことなどしたことがなかった。
旅を始めてからも会話は得意ではないという性格上、初対面の相手へ声を掛けるという行動は彼女にとって躊躇ってしまうようなことであった。
それでもこうして自ら他者へ距離を詰めた背景に、あのお人好しな魔導師と関りを持ったことが絡んでいることは間違いなかった。
「……お人好しが移ったわ」
「良いんじゃないですか。ご立派でしたよ」
柄にもないことをしてしまった照れ臭さから視線を落とす。
そんなクリスティーナの様子を見て、リオが愛おしそうに微笑んだ。
女性について行くと、ニュイの中心からやや南へ向かった場所に位置する酒場の前までやって来る。
日が暮れ始めた時間帯、店内は既に賑わい始めているようで騒がしい笑い声が扉の外まで聞こえていた。
店の前で足を止めた女性は礼を述べながら扉の前に立つ。
「うちは酒場と宿をやっているの。席も客室も大きくない、小さな店なんだけれど」
扉に手を掛けながら女性はクリスティーナ達へ振り返ってはにかむ。
「そういえば貴方達、ニコラと年が近そうね。うちの息子なんだけれど」
開く扉。更に大きく聞こえる喧噪。
女性は三人を店内へ招き入れながら話を続けた。
「そうだ、ご飯がまだなら是非食べて言って頂戴。お礼もしたいの」
「気遣いは結構よ。こちらが勝手にしたことだもの」
「そう言わないで。助かったのは事実なんだから」
賑やかな店内へ四人が足を踏み入れる。
それから程なくして、テーブルに座る客の相手をしていた青年が飲み物の乗ったトレイを片手に入口へやって来る。
「いらっしゃいませー、何名様で……」
店員であることが一目見てわかるエプロンを腰に巻き、穏やかに笑う青年はそこで言葉を切る。
眼鏡の奥、黄緑色の瞳が大きく見開かれた。
「あ!」
真っ先に声を上げ、彼へ指を突き付けたのはエリアス。
不思議そうに首を傾ける女性をよそに、クリスティーナ達と青年は静かに見つめ合った。
「……三名様で?」
やがて青年は取り繕うように再びにっこりと微笑みを浮かべる。
見覚えのある顔。しかしその外面の良い表情はクリスティーナ達が知る人物の雰囲気とは大きく異なっていた。
「別人?」
「いや、よく見てください。あの人中指立ててますよ」
「品がないわね。間違いなく本人でしょう」
彼から顔を背け、声を潜めるクリスティーナ達三人。
それを眼鏡の奥で見据えながら、オリヴィエは空いている手でこっそりと中指を立て、虫の居所の悪さを主張していた。
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