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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

103-2.天邪鬼

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「俺個人がそういう目を向けられる分には別に気にしませんよ。国でただの側仕えとして振る舞うだけであればそれでもよかったかもしれません」

 リオは視線を二人から逸らす。
 赤い瞳が捉えたのは棚に配置された鏡。そこに映る自分を眺めながら彼は目を伏せる。

「しかしこの旅路に於いてはそうも言ってられないでしょう。容姿から俺達の行動が把握される可能性も否定できません」

 黒髪赤目の男を含んだ三人組。それだけでクリスティーナ達の軌跡が特定されることも大いにあり得る。
 何より敵対している魔族に顔が割れてしまっているというのは確かに痛い。リオの主張も正しいものではあった。

「ですからせめて、フォルトゥナからある程度離れられるまでの間は俺の見目を誤魔化せるものがあってもいいのではと。消耗品である上に似たようなものを移動先で調達できるとも限りませんから、あくまで気休めにはなってしまいますが……」

 リオの主張は一理ある。当事者であるからこそ余計に気にするのもクリスティーナは理解出来た。
 しかし容姿という本人ですら選ぶことのできない要因に問題があると認めるようなことはしたくなかった。
 故にクリスティーナは彼の言葉に頷けない。

 リオの言葉に耳を傾けながら、クリスティーナは棚に陳列された商品をいくつか選び取る。

「容姿から同行が絞られる可能性については、一理あると思うわ」

 目薬数個と、それとは別の噴霧器を数個。それぞれ瞳の色を変える物と髪の色を変える物だ。
 クリスティーナはそれをリオへ押し付けた。

「私達は皆、髪色、瞳の色、それに体格も……何もかも違うもの。目立つのも仕方ないわ」

 銀、黒、赤の髪色。少女一人に、細身の男と体格の良い男。
 黒髪や赤い瞳というリオの容姿を抜きにしても、一見して全く違う見目を持つ三人が歩いていれば三人分の特徴を列挙するだけである程度までは人物を絞れてしまうだろう。

 クリスティーナ達を追う何者かを錯乱する際、三人分の容姿を一時的に誤魔化し、虚偽の容姿の情報を意図的に流すことは足跡を消すことにも繋がる。
 故にリオの容姿に問題があるからではなく、あくまで全員が使う為の物として買うのだという名目をクリスティーナは暗に主張した。

「早く買ってきなさい」

 押し付けられた品を抱えながら目を丸くする従者に一言だけ声を掛けると、クリスティーナは背を向けて先に店を出る。
 速足で遠ざかっていくその背中をリオとエリアスは呆けたように見送る。

 そして互いに顔を見合わせた二人は数秒の後に肩を震わせて吹き出したのだった。
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