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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

epilogue3-6.災厄へのカウントダウン

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「れ、レミ……」
 
 ノアは顔を上げ、目の前で立ち尽くす友の名を呼ぶ。
 
 知人の死という言葉が頭から離れない状況下、動揺を上手く隠しきれないノアの表情を見たレミは何かを悟ってしまったのだろう。
 青い顔のまま、放心状態であった彼の顔が絶望に彩られ、更に大きく歪んでいく。

 鋭く息を吸う短い音がした。ひゅ、ひゅ、というか細い呼吸音が彼の喉から絞り出される。
 その呼吸は不規則で、あまりにも浅い。
 顔を蒼白とさせるレミは、数秒遅れて正常に呼吸が出来ないことに気付いたらしい。自身の喉を両手で押さえて苦し気に喘いだ。

 堪らず蹲り、その息苦しさに涙を溢れさせる。
 しかしどれだけ本能が酸素を求めようとも、彼の体がそれを拒絶する。

 そして血の気の失せた顔で大きく震えていたレミは、やがて力尽きたように倒れ込んだ。
 
「っ、レミ……!」
 
 意識のないままに浅い呼吸を繰り返すレミ。
 更に人が倒れたことにより、混乱が広がる生徒会室。
 生徒達の騒ぐ声の中、倒れる二人を目の当たりにして、どう動くべきなのかとノアは途方に暮れる事しかできなかった。
 
 
***
 
 
「……だから言ったのに」
 
 その全貌を霧に埋める森林地帯、ミロワールの森。
 奥まった場所に位置するとある洞窟の中、醜い獣たちに囲まれて横たわる少女は呟く。
 
 その体は手足を一本ずつ失い、人としての姿も僅かにしか残せていない。だが回復速度は明らかに低下しているものの、それでも彼女の体は少しずつ修復が施されていく。
 やがては失った手足も元に戻るだろう。
 
「予定とは違ったけど……仕方ない」
 
 ベッドの役割を果たしてくれている魔物達の毛並みを優しく撫でながらベルフェゴールは双眸を細めた。
 
「災厄は始まった……もう誰にも止めることはできない」
 
 ゆっくりと瞼を閉じる。
 その裏に浮かぶのは白いローブの魔導師の姿。
 
 彼はこの絶望を目の当たりにして、どんな顔をするのだろうか。
 また足掻くのだろうか。それとも諦めてしまうのだろうか。
 それとも彼が決断するよりも先に自分がその首を刈り取ってしまうのだろうか。
 
 どんな結末でもいい。
 どんな結末であっても、愉快なことには変わりがないはずだから。
 赤い瞳は好奇心と殺意で鈍く輝いている。
 
「……待ってて。また会いに行くから」
 
 ――楽しみだね。
 魔物の群れの中で少女は呟く。
 
 洞窟の中、機嫌良さげに口遊まれる少女の歌声が小さく響いていた。
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