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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

epilogue3-1.災厄へのカウントダウン

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 オーケアヌス魔法学院内。生徒会室へ向かうべくノアとレミは廊下を歩いていた。
 目的地へと向かうレミは速足で歩く相手へ並びながら相手の顔をこっそりと盗み見る。
 
「いや……しかし」
 
 深々とローブのフードを被り、更にそれが誤って頭から落ちてしまわない様にと片手で引っ張るノア。
 その必死さに苦笑しながらレミはしみじみと呟いた。
 
「ノアもついに初恋かぁ、そっかそっか」
「やあぁぁぁめて! やめてください! お願いします!!」
 
 ノアが悲痛な叫びと共にローブの上から耳を塞ぐ。
 あまりの狼狽っぷりが愉快で、レミは隠すこともせずにけらけらと笑う。
 
「う、嘘だぁ……えぇ……」
 
 ノアは周囲の人目も気にすることなく、廊下の真ん中でしゃがみ込む。
 アレットに指摘をされるまで全くの無自覚であったらしい本人は、未だ自身の感情を整理しきれていないようだ。
 しかし一度意識してしまえば思い当たる節はいくつでも出てきてしまうし、無関係であるはずの事象ですら恋愛的な感情が作用していたのではと錯覚してしまう始末だ。
 
 いつから、と明確にわかる瞬間に心当たりはない。
 付き合いも長いわけではない。それどころか恋愛対象として視野に入るには短い方に入る程度の付き合いだろう。
 
「……え。勘違いとかないかな?」
「流石に無理があるんじゃないか……。めちゃくちゃわかりやすい、典型的な反応だぞ多分」
 
 本人に知られている訳でもないのに何故だか湧き上がる羞恥に悶え苦しみながらノアは呻き声を漏らす。
 
「いや、確かに何度も助けられたし、かっこいいなって思うところもいくつもあったけど……」
「あ、かっこいい路線なんだ」
 
 まさかと口では言いながらも、内心は殆ど確定なのだろうと悟っている。
 
 物怖じせず己の正しさを貫く芯の強さ。
 自衛に走っていた自分を叱責して見落としていた物に気付かせてくれたこと。
 対等な相手として助力を求めてくれたこと。
 自分の心が踏みにじられそうになったときに怒ってくれたこと。
 いつだって自分の能力を信じてくれたこと。それを言葉を尽くして伝えてくれたこと。
 
 多分それら全部が小さなきっかけで、それの積み重ねがここまで大きな気持ちを生んでしまったのだろう。
 姿を思い描いて、共に刻んだ時間を思い出す度に鼓動が僅かに速さを伴うのを感じる。
 そこに不快感はなく、代わりに胸が温かくなるような優しさが自分を包む。
 
「かっこいいよ。かっこいいし……」
 
 レミの言葉に頷きを返しながらも、未だ思い浮かぶのはクリスティーナの姿だ。
 言動から滲む凛々しさや気高さはノアが憧れを抱くに値するものである。しかし彼女のその振る舞いは全てが本心から来ている訳ではない事も知っている。
 
 時折見せる隠し切れない不安や動揺。それを隠す為の鎧であることをノアは悟っていた。
 若さ故に偽り切れない不安定な心と、それでも強く在ろうとする姿はいじらしく思えるし、出来る事なら彼女の負担を取り除いて楽にしてやりたいと思う。
 
(それに……)
 
 基本表情に乏しく冷たい印象を受ける振る舞いのクリスティーナ。それでも稀に浮かべる小さな微笑や自信に満ちた不敵な笑み、気が抜けたような笑顔、気恥ずかしさに負けてうっかり見せてしまう照れた顔。
 それらを思い返していれば、振る舞いの鱗片に見え隠れする彼女の感情の動きが愛おしいと感じた。
 
「……駄目だ、可愛いね。うん、可愛いです」
「おめでとう、重症だ」
「あぁぁぁ……」
 
 未だしゃがみ込んだままの姿勢でノアは頭を掻き毟った。
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