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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
epilogue2-2.幸先不安な移動
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オリヴィエの実力であれば一体の魔物を殲滅することなど容易いことだろう。故に断られることを想定していなかったリオは目を丸くする。
「あれ程度ならお前一人でもなんとかなるだろう。僕がわざわざ戦う必要を感じない」
「まあ、その通りではあるんですけど……」
「うわっ! お、おい、何とかしてくれるなら早くしてくれ!」
オリヴィエの返答にリオが首を傾げていると、前方から商人の悲鳴が聞こえる。
悠長に話をしている暇はないだろう。
そう判断したリオは話しを切り上げ、その場から姿を消す。
一刹那の後に響くのは魔物の断末魔が二つ。
瞬く間に惨殺され、倒れ伏す魔物に驚く商人の声を聞きながらクリスティーナはオリヴィエを観察した。
「何だ」
「怪我の調子でも悪いのかと思って」
「怪我?」
見たところ体のどこかを庇っているような様子はないが、骨が折れていようが平気で剣を振るおうとする脳筋騎士という例がすぐ傍にいるのだ。
本人に直接確認をとるのが確実だろうとクリスティーナは判断した。
しかし当の本人はクリスティーナと視線を合わせないように気を付けることに手一杯のようでクリスティーナの言葉の意図までは理解していないようである。
故にクリスティーナは言葉を付け足す。
「今、魔物との戦いを避けたでしょう」
「ああ」
意味を理解したらしいオリヴィエは納得したと言うように頷く。
「怪我は関係ない。完治はしていないがそっちと違って骨がいってるわけでもないしな」
「ならどうして?」
「どうしてと言われても」
言葉に迷ったのか、彼は小首を傾げ乍ら視線を彷徨わせる。
しかしすぐに探していた回答が見つかったらしい。
「魔法を使いたくないから」
「んなぁ……?」
たった今一人働いた者がいる傍で、彼は何の悪びれもなくそんなことを言ってのけた。
拍子抜けしたあまり、間抜けな声を出したのはエリアスだ。そしてクリスティーナも彼のような無様を晒すようなことはなかったが、その返答には目を剥いてしまう。
「面倒なことはしたくないんだ」
更に吐き出される自分本位な発言にクリスティーナは目を白黒とさせる。
「……その面倒なことを一人で担っている人物がいるのだけれど」
「みたいだな」
「みたいって、貴方……」
厚顔無恥な態度に対し、思わず批判をしそうになった時。
その様を見たオリヴィエは無関心そうに顔を背けて森の景色を眺めながら鼻で笑う。
「僕に思うことがあるようだが、働いていないという点に於いてはお前も人のことは言えないと思うけどな」
「な……っ」
「ひ、ひぇ……」
視線の一つも寄越さずに吐き出された言葉。陰口や悪評が独り歩きすることはあれど、未だかつて真正面からここまで侮辱されたことはなかった。
故にクリスティーナは思わず返す言葉を失う。
「あれ程度ならお前一人でもなんとかなるだろう。僕がわざわざ戦う必要を感じない」
「まあ、その通りではあるんですけど……」
「うわっ! お、おい、何とかしてくれるなら早くしてくれ!」
オリヴィエの返答にリオが首を傾げていると、前方から商人の悲鳴が聞こえる。
悠長に話をしている暇はないだろう。
そう判断したリオは話しを切り上げ、その場から姿を消す。
一刹那の後に響くのは魔物の断末魔が二つ。
瞬く間に惨殺され、倒れ伏す魔物に驚く商人の声を聞きながらクリスティーナはオリヴィエを観察した。
「何だ」
「怪我の調子でも悪いのかと思って」
「怪我?」
見たところ体のどこかを庇っているような様子はないが、骨が折れていようが平気で剣を振るおうとする脳筋騎士という例がすぐ傍にいるのだ。
本人に直接確認をとるのが確実だろうとクリスティーナは判断した。
しかし当の本人はクリスティーナと視線を合わせないように気を付けることに手一杯のようでクリスティーナの言葉の意図までは理解していないようである。
故にクリスティーナは言葉を付け足す。
「今、魔物との戦いを避けたでしょう」
「ああ」
意味を理解したらしいオリヴィエは納得したと言うように頷く。
「怪我は関係ない。完治はしていないがそっちと違って骨がいってるわけでもないしな」
「ならどうして?」
「どうしてと言われても」
言葉に迷ったのか、彼は小首を傾げ乍ら視線を彷徨わせる。
しかしすぐに探していた回答が見つかったらしい。
「魔法を使いたくないから」
「んなぁ……?」
たった今一人働いた者がいる傍で、彼は何の悪びれもなくそんなことを言ってのけた。
拍子抜けしたあまり、間抜けな声を出したのはエリアスだ。そしてクリスティーナも彼のような無様を晒すようなことはなかったが、その返答には目を剥いてしまう。
「面倒なことはしたくないんだ」
更に吐き出される自分本位な発言にクリスティーナは目を白黒とさせる。
「……その面倒なことを一人で担っている人物がいるのだけれど」
「みたいだな」
「みたいって、貴方……」
厚顔無恥な態度に対し、思わず批判をしそうになった時。
その様を見たオリヴィエは無関心そうに顔を背けて森の景色を眺めながら鼻で笑う。
「僕に思うことがあるようだが、働いていないという点に於いてはお前も人のことは言えないと思うけどな」
「な……っ」
「ひ、ひぇ……」
視線の一つも寄越さずに吐き出された言葉。陰口や悪評が独り歩きすることはあれど、未だかつて真正面からここまで侮辱されたことはなかった。
故にクリスティーナは思わず返す言葉を失う。
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