310 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
epilogue-1.取捨選択の先延ばし
しおりを挟む
遠くで賑わい出した校舎をアレットは自身の研究室の窓から眺める。
壁にもたれかかりながら外を見る顔はどこか憂い気で、彼女は静かに睫毛を伏せる。
一人物思いに耽る中、時計の針だけがその空間を満たしていた。
しかしその時間も長くは続かない。
戸が三度叩かれる音。それを聞き届けてからアレットは持たれていた壁から体起こしてそちらへと視線を向けた。
「入れ」
「失礼します、先生」
戸の奥から聞こえるのは数刻前に別れたばかりの弟子の声。
やがて開かれた戸から声の主が顔を覗かせ、静かに入室をする。
後ろ手に戸を閉めてから彼は歩みを進め、書斎机の前までやって来た。
アレットもまた、彼の入室を認めながら自分用の椅子に腰を掛ける。
「早速だが本題に入らせてもらおうか。私がお前を呼び出した理由はわかっているだろう」
「はいはい、お説教でしょ。さっき自分で言ってたじゃん、先生」
「ノア」
ノアはやれやれと大袈裟に肩を竦め、バツが悪そうに頭を掻く。
しかしそれは投げかけた問いに対して白を切る為の行為であることをアレットは知っている。
故に咎めるように短く彼の名を呼ぶ。
それだけで自身の悪足搔きが無駄であることを悟ったのだろう。彼はため息を一つ吐いてから困ったように片目を閉じ、話の続きを促した。
「フロンティエールで魔族ベルフェゴールが確認された事、その襲撃に際し撤退の手段として迷宮『エシェル』の転移大結晶を使用した事。果てにはベルフェゴールの何かを仄めかすような不吉な発言。粗方の経緯はお前自身から既に聞いたな。だが……」
アレットは目を細める。相手の言動へ細心の注意を払うかのように、その瞳は鋭く光っている。
「話していないこともある。そうだろう」
ノアは何も答えない。だがアレットは自身の至った結論が正しいことを確信していた。
「フロンティエールの混乱を鎮圧していた我々は遅れて森へ入った。お前が魔法を使った痕跡や魔物の死骸も確認している。しかし同時に、水以外の魔法が使われた痕跡も発見された」
アレットの脳裏を過るのは何名家の魔導師を引き連れて迷宮『エシェル』へ入った時の光景だ。
彼女が転移大結晶の前へ辿り着いたのはノアは既に移動を終えた後であり、尚且つベルフェゴールの姿も見つけることは出来なかった。
到着前に繰り広げられた戦闘の激しさを物語る、不自然につけられた地面のクレーターや部屋一面を凍結させた魔法の痕跡。荒れ果てた空間。
その光景を記憶した後、ノアの報告を聞いたアレットが抱いた疑問は大きく二つであった。
「一つ。オリヴィエ・ヴィレットと接触したな?」
壁にもたれかかりながら外を見る顔はどこか憂い気で、彼女は静かに睫毛を伏せる。
一人物思いに耽る中、時計の針だけがその空間を満たしていた。
しかしその時間も長くは続かない。
戸が三度叩かれる音。それを聞き届けてからアレットは持たれていた壁から体起こしてそちらへと視線を向けた。
「入れ」
「失礼します、先生」
戸の奥から聞こえるのは数刻前に別れたばかりの弟子の声。
やがて開かれた戸から声の主が顔を覗かせ、静かに入室をする。
後ろ手に戸を閉めてから彼は歩みを進め、書斎机の前までやって来た。
アレットもまた、彼の入室を認めながら自分用の椅子に腰を掛ける。
「早速だが本題に入らせてもらおうか。私がお前を呼び出した理由はわかっているだろう」
「はいはい、お説教でしょ。さっき自分で言ってたじゃん、先生」
「ノア」
ノアはやれやれと大袈裟に肩を竦め、バツが悪そうに頭を掻く。
しかしそれは投げかけた問いに対して白を切る為の行為であることをアレットは知っている。
故に咎めるように短く彼の名を呼ぶ。
それだけで自身の悪足搔きが無駄であることを悟ったのだろう。彼はため息を一つ吐いてから困ったように片目を閉じ、話の続きを促した。
「フロンティエールで魔族ベルフェゴールが確認された事、その襲撃に際し撤退の手段として迷宮『エシェル』の転移大結晶を使用した事。果てにはベルフェゴールの何かを仄めかすような不吉な発言。粗方の経緯はお前自身から既に聞いたな。だが……」
アレットは目を細める。相手の言動へ細心の注意を払うかのように、その瞳は鋭く光っている。
「話していないこともある。そうだろう」
ノアは何も答えない。だがアレットは自身の至った結論が正しいことを確信していた。
「フロンティエールの混乱を鎮圧していた我々は遅れて森へ入った。お前が魔法を使った痕跡や魔物の死骸も確認している。しかし同時に、水以外の魔法が使われた痕跡も発見された」
アレットの脳裏を過るのは何名家の魔導師を引き連れて迷宮『エシェル』へ入った時の光景だ。
彼女が転移大結晶の前へ辿り着いたのはノアは既に移動を終えた後であり、尚且つベルフェゴールの姿も見つけることは出来なかった。
到着前に繰り広げられた戦闘の激しさを物語る、不自然につけられた地面のクレーターや部屋一面を凍結させた魔法の痕跡。荒れ果てた空間。
その光景を記憶した後、ノアの報告を聞いたアレットが抱いた疑問は大きく二つであった。
「一つ。オリヴィエ・ヴィレットと接触したな?」
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・
y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える!
てってれてーてってれてーてててててー!
やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪
一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ
この小説の主人公は神崎 悠斗くん
前世では色々可哀想な人生を歩んでね…
まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪
前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる
久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく
色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー
友情、熱血、愛はあるかわかりません!
ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ
万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?
Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。
貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。
貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。
ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。
「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」
基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。
さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・
タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。
生まれ変わり大魔法使いの自由気まま生活?いえ、生きる為には、働かなくてはいけません。
光子
ファンタジー
昔むかしーーそう遠くない50年程前まで、この世界は魔王に襲われ、人類は滅亡の一手を辿っていた。
だが、そんな世界を救ったのが、大魔法使い《サクラ》だった。
彼女は、命をかけて魔王を封印し、世界を救った。
ーーーそれから50年後。
「……あ、思い出した」
すっかり平和になった世界。
その世界で、貧乏家庭で育った5人兄弟姉妹の真ん中《ヒナキ》は、財政難な家族を救う為、貴族様達金持ちが多く通う超一流学校に、就職に有利な魔法使いになる為に入学を決意!
女子生徒達の過度な嫌がらせや、王子様の意地悪で生意気な態度をスルーしつつ懸命に魔法の勉学に励んでいたら、ある日突然、前世の記憶が蘇った。
そう。私の前世は、大魔法使いサクラ。
もし生まれ変わったらなら、私が取り戻した平和を堪能するために、自由気ままな生活をしよう!そう決めていたのに、現実は、生きる為には、お金が必要。そう、働かなきゃならない!
それならせめて、学校生活を楽しみつつ、卒業したらホワイトな就職先を見付けようと決意を新たに、いつか自由気ままな生活を送れるようになるために、頑張る!
不定期更新していきます。
よろしくお願いします。
異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜
藤*鳳
ファンタジー
楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...??
神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!!
冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
ポポロニア島物語 ~魔王がいない世界を旅するぼくら~
雪月風花
ファンタジー
ポポロニア島南部に位置するアルマリア王国では、魔王討伐の為に、
国を挙げて、大々的に勇者パーティのコンテストを行った。
ところが、勇者パーティが結成され、今まさに旅立つというそのとき、
魔王が他国の勇者によって倒されたという報が届く。
事情により帰る家を失った勇者アークと魔法使いマールは、
仕方なく、既に魔王がいなくなった世界を旅することになるのだが……。
悪役令嬢ですが最強ですよ??
鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。
で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw
ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。
だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw
主人公最強系の話です。
苦手な方はバックで!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる