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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
96-2.形なき大切なもの
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(もう忘れたりしないわ)
――どうか忘れないでね。
母の言葉を思い返しながら、クリスティーナは心の中で呟く。
この先、もしかしたら自分の背負うものの大きさに打ちのめされてしまうことがあるかもしれない。けれど少なくとも今は大丈夫だ。
そしてそんな未来が待っているとしても、きっと母の言葉はクリスティーナを支え続けてくれるはずだ。
自分が身に着けていなくとも、必ず傍にいてくれる存在がそれを持っていてくれればブレスレットが目に留まる機会など山ほどあるだろう。
だから大切なものが自分の手を離れることに対してクリスティーナが不安に思う要素は何一つとしてなかった。
「だから、甘んじて受け入れなさい。それでも気が晴れないというのならば、それを傷つけない戦い方を見つけなさい」
空色の瞳は従者の顔を真っ直ぐに映し出す。
彼は僅かに目を見開き、数度瞬きをした。
「……畏まりました。善処致します」
やがて眉を下げながらもその顔に微笑を湛え、彼は頷いた。
彼の手首でブレスレットが小さな音を立てていた。
リオの返答に満足したクリスティーナは一つ頷いてから離れる。
そしてアレットとノアへ視線を戻す。
「ブレスレットの調子についてだけれど。問題はなさそうかしら」
二人から焦る様子が感じられないことを考えれば彼らの答えはある程度予測が出来るものであったが、念の為にと話を振る。
案の定、二人は首を縦に振った。
「リオの魔力量は上手く隠されているようだね」
「機能自体に問題はなさそうだ。ただ気になることがあるとすれば、耐久性の面か」
アレットは片手に持っていた杖の先でブレスレットを指し示す。
「組まれている魔術自体は非常に高度なものだが、それの媒体となっている物はただの装飾品と考えていい。急激な魔力量の変動に耐えられるよう手は加えているが、物理的な衝撃に対する耐久は通常の装飾品と変わらない」
「極端に言えば、どっかに引っかけた拍子に簡単に切れちゃう可能性もあるって事かな?」
「ああ。耐久性を上げる魔術も存在はするが、そこまで加える余裕はなかった。余裕があれば何かしらの対策を考えてみるといい」
「幸い、物の耐久を向上させる為の魔導具は存在するからね。珍しくはあるし、効果が見込めるもの程高価なものではあるから入手までが大変かもしれないけど」
「気に掛けておくわ」
うっかりどこかに引っ掛けて壊してしまうなどという失態はリオに限ってないだろうとは思うが、替えが効かないものである以上念には念を入れておきたいところだ。
ノアとアレットの助言にクリスティーナは頷きを返した。
「……さて。私は一度部屋へ戻る」
自分の役目を果たしたアレットは欠伸を一つ零すと手をひらひらと振りながらクリスティーナ達から背を向けた。
「俺はちょっと見送ってくるね」
「ああ。用が済んだら部屋まで来い。説教が残っているからな」
「うげ……っ、忘れてくれてるもんだと思ったのに!」
悲痛に叫ぶノアの声を無視してアレットは正門の脇に備えられた扉を潜って姿を消した。
小さな音を伴って扉が閉じたのを見届けてから、ノアは小さく肩を落とす。
「参った。アレット先生、説教長いんだよなぁ」
独り言を零した彼はしかし、すぐに気持ちを切り替えるように咳払いをした。
そしてクリスティーナ達を見つめるとはにかんでみせる。
「さて、じゃあ行こうか」
その表情は清々しくありながらも、僅かな名残惜しさが見え隠れしていた。
――どうか忘れないでね。
母の言葉を思い返しながら、クリスティーナは心の中で呟く。
この先、もしかしたら自分の背負うものの大きさに打ちのめされてしまうことがあるかもしれない。けれど少なくとも今は大丈夫だ。
そしてそんな未来が待っているとしても、きっと母の言葉はクリスティーナを支え続けてくれるはずだ。
自分が身に着けていなくとも、必ず傍にいてくれる存在がそれを持っていてくれればブレスレットが目に留まる機会など山ほどあるだろう。
だから大切なものが自分の手を離れることに対してクリスティーナが不安に思う要素は何一つとしてなかった。
「だから、甘んじて受け入れなさい。それでも気が晴れないというのならば、それを傷つけない戦い方を見つけなさい」
空色の瞳は従者の顔を真っ直ぐに映し出す。
彼は僅かに目を見開き、数度瞬きをした。
「……畏まりました。善処致します」
やがて眉を下げながらもその顔に微笑を湛え、彼は頷いた。
彼の手首でブレスレットが小さな音を立てていた。
リオの返答に満足したクリスティーナは一つ頷いてから離れる。
そしてアレットとノアへ視線を戻す。
「ブレスレットの調子についてだけれど。問題はなさそうかしら」
二人から焦る様子が感じられないことを考えれば彼らの答えはある程度予測が出来るものであったが、念の為にと話を振る。
案の定、二人は首を縦に振った。
「リオの魔力量は上手く隠されているようだね」
「機能自体に問題はなさそうだ。ただ気になることがあるとすれば、耐久性の面か」
アレットは片手に持っていた杖の先でブレスレットを指し示す。
「組まれている魔術自体は非常に高度なものだが、それの媒体となっている物はただの装飾品と考えていい。急激な魔力量の変動に耐えられるよう手は加えているが、物理的な衝撃に対する耐久は通常の装飾品と変わらない」
「極端に言えば、どっかに引っかけた拍子に簡単に切れちゃう可能性もあるって事かな?」
「ああ。耐久性を上げる魔術も存在はするが、そこまで加える余裕はなかった。余裕があれば何かしらの対策を考えてみるといい」
「幸い、物の耐久を向上させる為の魔導具は存在するからね。珍しくはあるし、効果が見込めるもの程高価なものではあるから入手までが大変かもしれないけど」
「気に掛けておくわ」
うっかりどこかに引っ掛けて壊してしまうなどという失態はリオに限ってないだろうとは思うが、替えが効かないものである以上念には念を入れておきたいところだ。
ノアとアレットの助言にクリスティーナは頷きを返した。
「……さて。私は一度部屋へ戻る」
自分の役目を果たしたアレットは欠伸を一つ零すと手をひらひらと振りながらクリスティーナ達から背を向けた。
「俺はちょっと見送ってくるね」
「ああ。用が済んだら部屋まで来い。説教が残っているからな」
「うげ……っ、忘れてくれてるもんだと思ったのに!」
悲痛に叫ぶノアの声を無視してアレットは正門の脇に備えられた扉を潜って姿を消した。
小さな音を伴って扉が閉じたのを見届けてから、ノアは小さく肩を落とす。
「参った。アレット先生、説教長いんだよなぁ」
独り言を零した彼はしかし、すぐに気持ちを切り替えるように咳払いをした。
そしてクリスティーナ達を見つめるとはにかんでみせる。
「さて、じゃあ行こうか」
その表情は清々しくありながらも、僅かな名残惜しさが見え隠れしていた。
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