上 下
290 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

90-3.魔法史の雑学

しおりを挟む
「先代聖女によって選ばれた『勤勉』の従者が存命だった場合、新たな聖女は『勤勉』の従者を選ぶことが出来ない……六人にしか力を授けることが出来ないということですね」

「そう。まああくまで一説によると、くらいの豆知識だけどね」

 黙々と読書に勤しんでいたはずのリオはどうやらクリスティーナとノアの会話にも耳を傾けていたようだ。
 読書と会話を器用に同時進行させている従者の言葉にノアは頷いた。

「あとは、聖女の従者は実は六人しかいないんじゃないか、とかね」
「本当なの?」
「諸説あるよ。ただ、俺個人としては全然あり得る話だなと思ってる」

 童謡でも当たり前のように七人と定義付けられていた従者の人数が違う可能性。その話に食いついたクリスティーナの様子を見てノアは得意げに笑みを深める。

「どんな書物を漁っても『純潔』に関する記述が少なすぎるんだ。聖女や他六人の生い立ちや魔王軍との戦いの後のことは少なからず残っているんだけど、彼についてはその辺りが抜けている」

 クリスティーナは昔よく聞かされていた聖女についての童謡を思い浮かべる。
 そして言われてみれば確かにそうかもしれないという結論に至ったのだ。

 他の従者達の突出した才に関しては童謡の中ですら語られる。しかし『純潔』についての印象は無と言っていい程に薄かった。

「まあ歴史書によると、彼は誰の目にも止まることのない速度の剣捌きを得意としていたようだし、実は誰も見えないようなものを文字に残しようがないっていうだけの理由なんだったとしたら、めちゃくちゃかっこいいなって思ったりもするんだけどね」

 従者の数が自分達の認識と合わない可能性。
 他者へ力を授ける能力とやらの詳細もわからない現状ではまだまだ先の話かもしれないが、この旅路の先、戦力が集まってきた才に従者が七人揃わない可能性を思い出せるよう、頭の片隅に置いておいた方がいいかもしれない。

 そんなことを考えていると、ふとノアが小さく笑いを零す。
 何がおかしいのかと問うように彼へ視線を向ければ、ノアはクリスティーナの正面を指さした。

 彼女の正面に座っているのは紙にペンを走らせていたレミだ。
 しかしその手も今や止まっており、その代わりにと彼は静かに舟を漕いでいた。
 肩肘をついた状態でこくこくと上下する頭と、無防備な寝顔。

 昨晩のやり取りを思い出しながら彼の顔をよくよく観察してみれば、目の下にうっすらと隈が刻まれていることに気付く。
 もしかしたらあの後も上手く寝付けなかったのかもしれない。

 一方でノアはクリスティーナの傍から離れ、静かにレミの後ろへと回り込む。
 そして背凭れに掛けられていたローブを彼の肩に掛けてやるとその隣の席へと腰を下ろした。

「もう少し話してよっか」
「構わないわ」

 レミの寝顔を覗き込みながらノアがもう暫くの滞在を提案する。
 彼の眠りを妨げないようにという気遣いだろう。
 クリスティーナとリオは息を潜めて話すノアの雑学に耳を傾けながら時間を過ごした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に来たら勇者するより旅行でしょう

はたつば
ファンタジー
大きな力を持つ者が揃った学校の一クラス。彼らは異世界へと召喚された。恩恵、魔術、兵器使用など、様々な力を転移前から持っていた彼らは異世界で何を見るのか。クラス内で化け物とされていた黒田 楓は居心地最悪のクラス内から抜け出すために王に頼んで旅に出た。最強な主人公が異世界を観光したり、家を建ててみたり、戦ってみたりと色々する物語です。 よくある主人公最強系がいいです。 異世界に来て美少女と出会う、爺と仲良くなる、国王がネタになる、かつての仲間と再会する、学園祭を満喫、別世界にいる、遊ぶ←イマココ タイトル詐欺と言う人もいるかもしれないが、逆に考えよう。まだ、本編は始まっていないと・・・ 九十話を超えて、タイトル回収の目処が・・・。 ストーリー性とかがちょっと(どころではなく)欠けているので、暇な人だけどうぞ 確定の更新日は毎週土曜19時です。その他でも不定期で更新することも無きにしもなんたら。 ーーーーーーー もう一つ、『僕達はどうしても美少女を仲間にしたい』をよろしくお願いします。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

アブストラクト・シンキング 人間編

時富まいむ(プロフ必読
ファンタジー
訳ありでここに連載している小説をカクヨムに移転、以降の更新をそちらで行います。 一月末まで公開しております 侵食した世界に隠された真実を子供たちは受け入れるのか、それとも・・・

乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚

水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ! そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!! 最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。 だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。 チートの成長率ってよく分からないです。 初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。 会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!! あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。 あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。 貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。 …あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?

処理中です...