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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

81-2.拭えない不安

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(お母様が早くに亡くなられたのは聖女である私を産んだから……?)

 母が亡くなったのはクリスティーナが生まれてからだ。しかし早期に迎えた死の原因がクリスティーナの誕生の前にあるとすれば、聖女が産み落とされる『代償』となり得た可能性も十分にあり得る。

 そして聖女の誕生による弊害の恐ろしいところは、その悪影響が一つに留まらない可能性を秘めているところだ。
 母の死の他、他の家族や公爵領全体にも危害が加えられていた可能性があるのだ。

 クリスティーナは小さく息を吐いた。
 どれだけ考えを巡らせたとて、それらは憶測の域に出ない。そして当事者となり得る人物が傍にいない以上、事実を確かめる術もない。
 この件についていくら考えたとて不毛であるとわかっていながらも、考え続ける頭はなかなか休まろうという結論に至らないようであった。

 クリスティーナはゆっくりと瞼を持ち上げる。
 目を開いても視界に入るのは闇。輪郭が曖昧な部屋の風景も捉えることができるが、それはクリスティーナの気を紛らわせてくれるようなものにはなり得ない。

 もう暫く眠ることもできそうにないと悟ったクリスティーナは静かに体を起こした。
 ベッドの下段では負傷したエリアスが眠っている。それを起こさないようにゆっくりと梯子を降りていく。

「眠れませんか」

 床を踏み締めた時、静かに囁く声がした。
 万一に備えて見張っていたのだろう。ベッドの脇に腰を下ろしていたリオがクリスティーナを見上げていた。

「……少し。外の空気を吸ってくるわ」
「わかりました」

 従者は小さく頷くと腰を浮かす。しかしすぐ傍からついてくるつもりはないようだ。
 護衛という立場から主人を一人にすることはできない。しかしクリスティーナが周りに気を遣わず一人になりたいと考えていることを悟っているのだろう。
 故に彼は少し距離を置いて主人の後を追うつもりのようであった。

 クリスティーナはそれに甘えて先に部屋を出る。
 気配が一つ遠ざかったのを確認してから静かに体を起こす騎士を視界の端に捉え、リオは軽く片手を上げた。

 自分が向かうから休んでいるようにと視線で訴えれば、意図を悟った相手は小さく頷きを返す。
 そして再び布団へ体を預けた。

 その様子を窺ってからリオもまたその場を後にした。
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