255 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
78-1.狂者への疑り
しおりを挟む
夜の冷えた空気を肌に感じながら、外へ出たリオとエリアスは壁にもたれかかるようにして腰を下ろした。
「っ、てて……」
「と、そうでした。お怪我の調子は?」
「んー、骨に罅入ってるかなんかはしてそうだな。走ったり急に動くのが難しいかもって感じ」
「配慮に欠けていましたね。すみません」
「いいっていいって。あっちは二人で話したかったんだろうし」
脇腹を庇うように押さえながら、エリアスは窓を一瞥した。
その視線につられる形で同じように窓を見てからリオはエリアスへ視線を向けた。
「お嬢様であれば治せるかもしれませんが」
「部外者がいる状態では難しいだろうなぁ。まあ関係者だけになったタイミングに頼めればって感じかね。動けないわけじゃねーし」
「そうですね」
遅れて正面へ視線を戻したエリアスは、あからさまにそわそわと居心地悪そうな振る舞いをする。
それに目敏く気付いたリオは敢えて視線を逸らして相手から口を開くのを待った。
頭上を仰ぐ赤い瞳に夜空が映り込む。
散りばめられた小さな星々と、半端に掻けた月。面白みに欠ける景色を無関心に眺めていると、隣から息を吸う気配を感じた。
「ミロワールの霧の話なんだけどさ。あの魔族が出てきて、お前達はすぐ撤退しただろ」
「はい」
顔は持ち上げたまま、横目で視線だけをエリアスに向ける。
その瞳に答えるように彼もまた自身の目だけをリオへと移した。
「お前がいなくなる時……一瞬だったけど、幻影を見た。多分お前のだ」
「俺の、ですか」
リオは意外そうに目を丸くする。
ミロワールの霧の性質を聞いた時から、自分に関連した幻影が現れる可能性は低いだろうとリオは踏んでいた。
それは自分が何かに執着することは殆どないと自覚をしているからだ。
他人は勿論、自、分にすらさほど興味もこだわりも持たないリオ。それ故に自身に根強く残っているような経験に心当たりはなかったし、仮に自分の心を揺さぶるような何かが現れるとすればそれは主人であるクリスティーナに関連した記憶だろうと推測いた。
しかしその予測は裏切られる。
小さく頷きを返した後、エリアスの口から語り出された詳細はリオにとっても驚くべき内容であった。
「あの現象は初めて見たし……その時のノアの反応から考えるに、あいつの知識にもなかったんだと思う」
幻影を覆い隠す様な黒い泥、声を遮るようなノイズ、黄色い瞳の少年。
それらの話を終えたエリアスが自身の語りを締めくくった頃、耳を傾けていたリオは自身の顎に手を当てて神妙な面持ちで物思いに耽っていた。
その様子を視界に捉えながらエリアスは更に言葉を続ける。
「それと、別件だがあの魔族がお前へかけた言葉も気になる」
エリアスの瞼の裏に浮かぶのは迷宮『エシェル』にてベルフェゴールが追い付いた直後、真っ先に彼女と刃を交えたリオの姿。
エリアスとオリヴィエが遅れて彼らへと距離を詰めた際、ベルフェゴールがリオへ向けて放った言葉。
「人形ってのは何だ?」
「っ、てて……」
「と、そうでした。お怪我の調子は?」
「んー、骨に罅入ってるかなんかはしてそうだな。走ったり急に動くのが難しいかもって感じ」
「配慮に欠けていましたね。すみません」
「いいっていいって。あっちは二人で話したかったんだろうし」
脇腹を庇うように押さえながら、エリアスは窓を一瞥した。
その視線につられる形で同じように窓を見てからリオはエリアスへ視線を向けた。
「お嬢様であれば治せるかもしれませんが」
「部外者がいる状態では難しいだろうなぁ。まあ関係者だけになったタイミングに頼めればって感じかね。動けないわけじゃねーし」
「そうですね」
遅れて正面へ視線を戻したエリアスは、あからさまにそわそわと居心地悪そうな振る舞いをする。
それに目敏く気付いたリオは敢えて視線を逸らして相手から口を開くのを待った。
頭上を仰ぐ赤い瞳に夜空が映り込む。
散りばめられた小さな星々と、半端に掻けた月。面白みに欠ける景色を無関心に眺めていると、隣から息を吸う気配を感じた。
「ミロワールの霧の話なんだけどさ。あの魔族が出てきて、お前達はすぐ撤退しただろ」
「はい」
顔は持ち上げたまま、横目で視線だけをエリアスに向ける。
その瞳に答えるように彼もまた自身の目だけをリオへと移した。
「お前がいなくなる時……一瞬だったけど、幻影を見た。多分お前のだ」
「俺の、ですか」
リオは意外そうに目を丸くする。
ミロワールの霧の性質を聞いた時から、自分に関連した幻影が現れる可能性は低いだろうとリオは踏んでいた。
それは自分が何かに執着することは殆どないと自覚をしているからだ。
他人は勿論、自、分にすらさほど興味もこだわりも持たないリオ。それ故に自身に根強く残っているような経験に心当たりはなかったし、仮に自分の心を揺さぶるような何かが現れるとすればそれは主人であるクリスティーナに関連した記憶だろうと推測いた。
しかしその予測は裏切られる。
小さく頷きを返した後、エリアスの口から語り出された詳細はリオにとっても驚くべき内容であった。
「あの現象は初めて見たし……その時のノアの反応から考えるに、あいつの知識にもなかったんだと思う」
幻影を覆い隠す様な黒い泥、声を遮るようなノイズ、黄色い瞳の少年。
それらの話を終えたエリアスが自身の語りを締めくくった頃、耳を傾けていたリオは自身の顎に手を当てて神妙な面持ちで物思いに耽っていた。
その様子を視界に捉えながらエリアスは更に言葉を続ける。
「それと、別件だがあの魔族がお前へかけた言葉も気になる」
エリアスの瞼の裏に浮かぶのは迷宮『エシェル』にてベルフェゴールが追い付いた直後、真っ先に彼女と刃を交えたリオの姿。
エリアスとオリヴィエが遅れて彼らへと距離を詰めた際、ベルフェゴールがリオへ向けて放った言葉。
「人形ってのは何だ?」
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
私との婚約は政略ですか?恋人とどうぞ仲良くしてください
稲垣桜
恋愛
リンデン伯爵家はこの王国でも有数な貿易港を領地内に持つ、王家からの信頼も厚い家門で、その娘の私、エリザベスはコゼルス侯爵家の二男のルカ様との婚約が10歳の時に決まっていました。
王都で暮らすルカ様は私より4歳年上で、その時にはレイフォール学園の2年に在籍中。
そして『学園でルカには親密な令嬢がいる』と兄から聞かされた私。
学園に入学した私は仲良さそうな二人の姿を見て、自分との婚約は政略だったんだって。
私はサラサラの黒髪に海のような濃紺の瞳を持つルカ様に一目惚れをしたけれど、よく言っても中の上の容姿の私が婚約者に選ばれたことが不思議だったのよね。
でも、リンデン伯爵家の領地には交易港があるから、侯爵家の家業から考えて、領地内の港の使用料を抑える為の政略結婚だったのかな。
でも、実際にはルカ様にはルカ様の悩みがあるみたい……なんだけどね。
※ 誤字・脱字が多いと思います。ごめんなさい。
※ あくまでもフィクションです。
※ ゆるふわ設定のご都合主義です。
※ 実在の人物や団体とは一切関係はありません。
最強執事の恩返し~大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。恩返しのため復興させます~
榊与一
ファンタジー
異世界転生した日本人、大和猛(やまとたける)。
彼は異世界エデンで、コーガス侯爵家によって拾われタケル・コーガスとして育てられる。
それまでの孤独な人生で何も持つ事の出来なかった彼にとって、コーガス家は生まれて初めて手に入れた家であり家族だった。
その家を守るために転生時のチート能力で魔王を退け。
そしてその裏にいる大魔王を倒すため、タケルは魔界に乗り込んだ。
――それから100年。
遂にタケルは大魔王を討伐する事に成功する。
そして彼はエデンへと帰還した。
「さあ、帰ろう」
だが余りに時間が立ちすぎていた為に、タケルの事を覚えている者はいない。
それでも彼は満足していた。
何故なら、コーガス家を守れたからだ。
そう思っていたのだが……
「コーガス家が没落!?そんな馬鹿な!?」
これは世界を救った勇者が、かつて自分を拾い温かく育ててくれた没落した侯爵家をチートな能力で再興させる物語である。
令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜
三月べに
ファンタジー
令嬢に転生してよかった〜!!!
素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。
少女漫画や小説大好き人間だった前世。
転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。
そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが?
【連載再開しました! 二章 冒険編。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる