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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

78-1.狂者への疑り

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 夜の冷えた空気を肌に感じながら、外へ出たリオとエリアスは壁にもたれかかるようにして腰を下ろした。

「っ、てて……」
「と、そうでした。お怪我の調子は?」
「んー、骨に罅入ってるかなんかはしてそうだな。走ったり急に動くのが難しいかもって感じ」
「配慮に欠けていましたね。すみません」
「いいっていいって。あっちは二人で話したかったんだろうし」

 脇腹を庇うように押さえながら、エリアスは窓を一瞥した。
 その視線につられる形で同じように窓を見てからリオはエリアスへ視線を向けた。

「お嬢様であれば治せるかもしれませんが」
「部外者がいる状態では難しいだろうなぁ。まあ関係者だけになったタイミングに頼めればって感じかね。動けないわけじゃねーし」
「そうですね」

 遅れて正面へ視線を戻したエリアスは、あからさまにそわそわと居心地悪そうな振る舞いをする。
 それに目敏く気付いたリオは敢えて視線を逸らして相手から口を開くのを待った。

 頭上を仰ぐ赤い瞳に夜空が映り込む。
 散りばめられた小さな星々と、半端に掻けた月。面白みに欠ける景色を無関心に眺めていると、隣から息を吸う気配を感じた。

「ミロワールの霧の話なんだけどさ。あの魔族が出てきて、お前達はすぐ撤退しただろ」
「はい」

 顔は持ち上げたまま、横目で視線だけをエリアスに向ける。
 その瞳に答えるように彼もまた自身の目だけをリオへと移した。

「お前がいなくなる時……一瞬だったけど、幻影を見た。多分お前のだ」
「俺の、ですか」

 リオは意外そうに目を丸くする。
 ミロワールの霧の性質を聞いた時から、自分に関連した幻影が現れる可能性は低いだろうとリオは踏んでいた。
 それは自分が何かに執着することは殆どないと自覚をしているからだ。

 他人は勿論、自、分にすらさほど興味もこだわりも持たないリオ。それ故に自身に根強く残っているような経験に心当たりはなかったし、仮に自分の心を揺さぶるような何かが現れるとすればそれは主人であるクリスティーナに関連した記憶だろうと推測いた。

 しかしその予測は裏切られる。
 小さく頷きを返した後、エリアスの口から語り出された詳細はリオにとっても驚くべき内容であった。

「あの現象は初めて見たし……その時のノアの反応から考えるに、あいつの知識にもなかったんだと思う」

 幻影を覆い隠す様な黒い泥、声を遮るようなノイズ、黄色い瞳の少年。
 それらの話を終えたエリアスが自身の語りを締めくくった頃、耳を傾けていたリオは自身の顎に手を当てて神妙な面持ちで物思いに耽っていた。
 その様子を視界に捉えながらエリアスは更に言葉を続ける。

「それと、別件だがあの魔族がお前へかけた言葉も気になる」

 エリアスの瞼の裏に浮かぶのは迷宮『エシェル』にてベルフェゴールが追い付いた直後、真っ先に彼女と刃を交えたリオの姿。
 エリアスとオリヴィエが遅れて彼らへと距離を詰めた際、ベルフェゴールがリオへ向けて放った言葉。

人形ドールってのは何だ?」
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