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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

72-5.生首の似合う聖女

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 張りつめる空気を切り抜け、安心感が募る。
 すっかり緩んだ雰囲気が場を満たし、僅かに残っていた緊張すら静かに溶けて消えていく。

 やがてノアとレミは寮長からのお咎めを終えたらしく、部屋の戸が開かれた。

「……酷い有様だな、本当に」
「ははは」

 大勢の客人や頭と体が分離した存在。混沌とした光景を再度目の当たりにしたレミは青い顔のままこめかみを押さえた。
 そんな彼に続いてノアも部屋へ足を踏み入れ、後ろ手に扉を閉める。

 そしてそこで視界が捉えた光景に目を奪われる。
 彼はふと足を止めた。

「ノア?」
「……え、ああ。何でもないよ」

 何かあったのかと問う視線が傍らから注がれ、ノアは我に返る。
 首を横に振りながらも、彼の視線が捉えるのは先程と同じものだった。

 頭から足まで、返り血塗れになった少女。
 美しい銀髪や白い肌と対比になるように付着した赤は色素が薄く儚い雰囲気を与える彼女へ彩りを与えているかのようだった。

 更に品のある仕草で抱き上げられているのは同じく血だらけの生首。
 しかし頭だけとなった従者の生首はとても穏やかな微笑みを湛えており、痛みや苦しみを連想させるには程遠い雰囲気だ。

 両手を血に濡らす少女はそれを静かに見つめている。
 冷たい印象を与えやすい釣り上がった目と空色の瞳。そこには彼女の人となりを知る人物のみが気付ける温かさが確かに込められていた。
 口紅の代わりだとでも言うように彼女の薄い唇へ足された鮮血。それを巻き込んで緩く弧を描く彼女からは背徳的な美しさすら感じられた。

(こんなことを思うには場違いすぎるんだろうけれど……)

 間違っても天使だとか神聖なものとしては例えられないだろう有様。
 それでも血に塗れ、人の頭を優しく抱き上げる少女が彼へ与えた印象は――

(……綺麗だな)

 元より薄い色だけで構成されたような容姿を持つクリスティーナ。

 しかし無造作に浴びせられた赤も、大切そうに抱き上げる従者の生首も、初めから彼女の為の装飾として用意されたのではないかと思わせる程に……

 その様は良く映えていた。
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